湘南をベースに多方面で活躍する女性たちに、湘南在住のライターが「身体、精神、社会的により良い状態であること」を指す「Well-beingな生き方」をテーマにインタビューする連載。今回取材したのは、草から糸をつくり、その糸で作品をつくる作家として活動したのち、「草文明探求者」となり、今年、一般社団法人EARTH BOOKを立ち上げた矢谷左知子さん。長年、身近に野生している草たちと向き合うなかで、生きる上で本当に大切なものを確信できたと言います。野草との出合いや草作家としての活動、自然とアートが共存する葉山でのシンプルな暮らしのなかでの自然との向き合い方について聞きました。

東京育ち、あるとき草に「出合った」

―― 「草文明探求者」という少し聞き慣れない肩書を名乗っています。具体的にどんな活動をしているのでしょうか?

矢谷左知子さん(以下、敬称略) 今から26年前、突如「草」に興味を持ちはじめました。草は地球上ほとんどの場所に生えていますが、私の扱う草は歩いて採れる範囲の身近な植物です。言い換えれば「ただの草」ですね。

 私の探求は、植物にまつわる知識や特別な技法についてではなく、何億年もかけて草たちが培ってきた英知そのものがテーマです。当初から人には学ばない、栽培をしないということを大事にしてきましたので、人智にアクセスせず、すべてを自力で、野生から学んでいます。そういった意味で「探求者」という表現が一番しっくりくるような気がするのです。

―― 葉山へ移住する前は東京でデザインの仕事をしていたそうですが、移住に至ったきっかけは?

矢谷 東京の住宅街育ちで、野草はおろか、自然ともかけ離れた生活をしていた私が、なぜ草に魅せられたか不思議ですよね。

 もともと、学生時代にデザインを勉強し、東京でデザイナーとして働いていました。デザイナーとしての仕事にやりがいは感じていましたが、デザインをするという行為は、大量生産のスタートでもあります。メーカーの意向などでデザインが変更になることも多く、最後まで責任を持つことはできません。そんな環境の中で働くことに、少しずつ違和感を覚えていました。

 時を同じくして、リタイアした両親が伊豆の山の中で暮らしはじめたんです。ある時、両親の元を訪れた際、自然という大いなる存在に衝撃を受けました。と同時に、自然の中にある草に「出合った」と感じ、自分が探していたものはこれだと確信したのです。

―― 葉山へはいつごろ移住されたのですか?

矢谷 葉山との縁は30年以上前からありましたが、実際に移住したのは26年前です。当時、森戸海岸のoasisという海の家に関わっていたこともあり、葉山にはたくさんの友人がいましたし、夏はこの辺りでずっと過ごしていたんです。ですから、都心から葉山への移住は自然な流れでした。現在の家には2011年から住んでいます。

東京育ちで幼少期は野草はおろか、自然ともかけ離れた生活をしていたという
東京育ちで幼少期は野草はおろか、自然ともかけ離れた生活をしていたという