エレガントなハタハタの飯寿司(いずし)

 ハタハタを使ったさまざまなレシピのうち、僕が強く感銘を受けたのは「ハタハタ寿司」。今でも多くの家庭で手づくりされている飯寿司(麹や米と一緒に漬け込んだ東北版なれずし)の一種です。

ハタハタの飯寿司。ほんのり優しく甘く、うまく、品よく酸味がキマっている。エレガントな味!
ハタハタの飯寿司。ほんのり優しく甘く、うまく、品よく酸味がキマっている。エレガントな味!

 さてこのハタハタ寿司。どのように作るかというとだな。

 まずハタハタの内臓やエラを取り除き、一晩塩漬けにする。翌日塩を洗って今度は軽く酢漬けにする。ここまでが下漬け。そして身がしんなりしたハタハタを麹と米、ニンジンなどを混ぜた床に漬け込み数週間発酵させて出来上がり。

 生の魚を長期間漬け込んだものは、通常好き嫌いが激しく分かれそうなストロングスメルや、ブルーチーズのようなストレンジテイストが発生しがちなのですが、寒い時期に甘みのある麹と合わせてゆっくりと発酵させるハタハタ寿司は見た目も味もエレガント極まりない。臭みがなく、適度に甘酸っぱく、ハタハタの穏やかなうまみと脂が染み渡ります。

 本物のエレガンスは都会の貴族ではなく、地方のおとうおかあの食卓で出合えるものなのだよ。感動……!

 さてこのハタハタ寿司。秋田の爽やかな風味の日本酒に恐ろしくマッチします。雪のしんしんと降る夜、ハタハタ寿司をつまみながら日本酒をクピクピと飲む。This is the 秋田。

 秋田県民の「食のさしすせそ」は他県とは一味違う。「し」は、しょっつるの「し」。「す」は、ハタハタ寿司の「す」。そして「さ」は、日本酒の「さ」。

 次回は日本酒と麹を巡る秋田のディープツアーをご紹介します。

文・写真・イラスト/小倉ヒラク