ハタハタを塩の海に沈めて一年、発酵により魚醤ができる

 港の横の作業小屋をのぞいてみると、何やらお母さんたちが夢中で何かを仕込んでいます。取れたてのハタハタを計量し、バケツの中で塩漬けに。これは、「しょっつる」と呼ばれる、ハタハタでつくる魚醤(ぎょしょう)の仕込みの風景です。

しょっつるを仕込む作業小屋。ハタハタを洗い、運び、計量し、容器に詰めて塩漬けする。ほぼ無言で作業に集中している
しょっつるを仕込む作業小屋。ハタハタを洗い、運び、計量し、容器に詰めて塩漬けする。ほぼ無言で作業に集中している

 ちなみに魚醤とは、魚介を塩漬けにして魚介自身の消化酵素と発酵作用によってドロドロに溶かし、その上澄み部分を調味料としたもの。日本だけでなく世界中に分布し、タイのナンプラーやベトナムのニョクマムが有名。原料はカタクチイワシがよく使われますが、それ以外の魚介を使ったさまざまな魚醤のバリエーションがあります。

 ハタハタは大きなものになると全長20cmくらいある、割とサイズ感のある魚なのですが、塩の海に沈めて一年ほどたつと身も皮もドロドロに溶けて底に骨が残るのみ。このドロドロのもろみを濾(こ)すと、濃厚なうまみの液体がゲットできます。

味付けも具もハタハタの「ハタハタ鍋」

 このしょっつる。秋田では醤油の代わりに使われるポピュラーな調味料。家庭の食卓に何気なくボトルが並んでいます。で、ビックリしたのが「ハタハタ鍋」。ハタハタを煮て食べる鍋なのですが、味付けがしょっつる。

 なお僕が幸運にも見学できたのは、年にたった1日の貴重な仕込み現場。この日に合わせてお母さんたちは全身に気合を漲(みなぎ)らせ、目にも留まらぬ速さで働く姿は神の魚、ハタハタの超自然的なパワーによってトランスした神々しい巫女(みこ)の姿……!