「甲州ワイン」とは何か?

 僕がいま住んでいるのは、山梨県のちょうど真ん中、峡東地区と呼ばれる丘陵地です。実はここ、日本一のワインの銘醸地。勝沼ぶどう郷を中心とした小さなエリアに50近いワイナリーが集まっています。ここでつくられているのが、日本独自のローカルワイン『甲州ワイン』なのです。

 さてこの甲州ワイン。いったいどんなものなのか。端的に言えば「山梨に根付いたブドウ種で醸したワイン」ということになります。

これが甲州ブドウ。淡い紫ピンク色をしている(写真はマルサン葡萄酒の若尾亮さん)
これが甲州ブドウ。淡い紫ピンク色をしている(写真はマルサン葡萄酒の若尾亮さん)

 そもそも、ワインの原料はブドウのみ。ブドウジュースを酵母という微生物によって発酵させてアルコールをつくりだした発酵飲料=ワインなのです。

 で。原料がブドウのみということは、ブドウの質=ワインの質ということになりますね。そしてこのブドウの種類、本場フランスや南米、アメリカやオーストラリアなど、世界の主要なワイン文化圏ではワイン用にチューンナップされたブドウを使って醸されます。ワインボトルに「カベルネ・ソーヴィニヨン」「シャルドネ」なんて書いてあるのは、世界中で使われているスタンダードワイン用ブドウの名前。

 ところが。

 山梨のワインで最もよく使われるのは「甲州」という日本(もっと言えば山梨)固有のローカルブドウ。なんと1300年ほど前に中国からシルクロード経由で山梨に渡ってきて日本の気候風土に適応した限りなく素朴な山ブドウの末裔を使って白ワインをつくっているのですね(皮の色が薄紫なので赤ワインはつくれない)。

 ブドウの種類が違うので、当然ワインの味も違ってきます。もともとおやつ用に栽培されてきた「甲州」で醸すワインは、種や皮のほろ苦さと日本の土っぽいミネラル感、穏やかな酸味とややウェットな質感の甘みを感じます。例えば欧米の白ワイン用スタンダード種「ソーヴィニヨンブラン」と比べてみると、酸味のキレもボディも弱いのですが、食べ物としてのブドウっぽさや味の丸みを感じるという点で、食中酒、とりわけ和食とのペアリングに強みがあるんですね。