小倉ヒラクさんは、発酵食品を文化人類学の観点から見直してその魅力を伝える「発酵デザイナー」。2018年から2019年にかけて、47都道府県の発酵食品がつくられる現場を一人で訪ねました。前回記事「黒糖焼酎にソテツ味噌!南国ならではの発酵文化をめでる」で鹿児島県・奄美群島の魅力を教わったのに続き、今回はさらに南下して沖縄の発酵食文化を紹介してもらいます。ヒラクさんお薦めのお店も登場しますよ!

 こんにちは。発酵デザイナーの小倉ヒラクです。僕は発酵文化のスペシャリストとして、日々微生物の世界を探求し、その魅力を伝える活動をしています。

 僕は2018年から2019年にかけて、発酵食を求めて全国47都道府県を訪ねました。この壮大な『日本発酵紀行』の背景については、第1回記事「小倉ヒラク 洋酒文化が地酒になった。魅惑の甲州ワイン」の冒頭で紹介しているので詳しくは読んでいただくとして、第6回で連載最後となる今回は、沖縄を旅します。琉球王朝の伝統を引き継ぐ、いわゆる日本の発酵文化とは一線を画す沖縄の発酵食からはアジアのルーツが垣間見えます。それでは行ってみよう!

いわゆる日本の発酵文化とは一線を画す沖縄の発酵食からは、アジアのルーツが垣間見えます
いわゆる日本の発酵文化とは一線を画す沖縄の発酵食からは、アジアのルーツが垣間見えます

沖縄といえば、やっぱり泡盛!

 沖縄の居酒屋で島唄を聴きながら泡盛を飲む。これだけを目的に沖縄に行きたい!と思わせる魅惑の南国酒、泡盛。その官能的な香り、口に含んだときに鼻に抜けていく独特の甘いエキゾチックな風味。読者の皆さまはお好きですか? 僕はめちゃ大好きです。

 さてこの泡盛。いかなる酒かご存じでしょうか?

 ざっくり言うと、日本の焼酎の源流となる蒸留酒です。ただし本土の焼酎と異なる点がいくつかあるんですね。

泡盛は「手づくりの面影が残るクラシカルな蒸留酒」

 まず原料。泡盛では伝統的にタイ米を原料として醸造します。本土の焼酎に使うのはジャポニカ米ですが、気候風土が日本型の稲作に適さない沖縄では中世の頃からタイの米を輸入していたのです。

 そして微生物。泡盛では沖縄の風土に適応した黒い麹菌(カビ)を使います。これもごく少数の例外を除いて沖縄の泡盛だけ。焼酎に使うカビは白い麹菌で、これは実は泡盛の黒いカビの突然変異を培養したものだったりします。

 さらに製法。焼酎では、米麹をベースに甘酒状のものをつくり、そこに芋なり麦なりを加える「2段仕込み」のもろみを蒸留しますが、泡盛の場合はタイ米麹に水を加えて直接発酵させる「1段仕込み」スタイル。

 現代的な焼酎と泡盛を比べてみると、泡盛のほうが古いルーツの製法であることが分かります。輸入したタイ米を使い、土着由来の微生物で醸し、しかも出たとこ勝負の1段仕込み。近代以前の手づくり製法の面影が色濃く残るクラシカルな蒸留酒。だからこそ蔵ごとに個性が強く出る、ローカリティの強いお酒なのです。