M&A(合併・買収)や事業の再生・再編を手がけるPwCアドバイザリー合同会社。代表執行役を務める吉田あかね氏は、同社の女性として、初めて内部昇格でトップに就いた人物だ。男性の活躍が目立つこの事業分野において、彼女が抜擢(ばってき)された理由は何か。コロナ禍で人々の働き方が大きく変化する中で、今、女性たちに求められることは何か。自らの経験を踏まえ、語ってもらった。(聞き手は日経BP執行役員高柳正盛)

PwCアドバイザリー代表執行役の吉田 あかね氏
PwCアドバイザリー代表執行役の吉田 あかね氏

コロナ禍で、「働き方」が経営課題そのものになった

――コロナ禍で、人々の働き方や企業経営のあり方が大きく変わったと言われています。

吉田 確かに変わりましたね。そもそも、人々がこれほどまでに「働き方」に注目したことがあったでしょうか。緊急事態宣言等でリモートワークが一気に拡大し、「出社しない働き方」が浸透しました。同時に、在宅勤務をすることができない人々、例えば医療・福祉、店舗販売、公共交通機関、物流などに携わる「エッセンシャルワーカー」の方々に対する社会的な注目も高まりました。労働についての懸案事項が経営課題そのものとなり、企業の責任も厳しく問われるようになった。もはや経営者がそこから目を背けることは許されなくなったのです。

 もともと世界中でESG(環境・社会・ガバナンス)やSDGs(持続可能な開発目標)が企業経営におけるキーワードとなり、経営者の意識は変わりつつあった。「やるのが望ましい」から「やらなければ生き残れない」時代になってきたことを自覚し始めていたのです。

 そこにコロナ禍が押し寄せ、一気にその流れが加速しました。「新しい働き方」は、企業はもちろん、働く人々の考え方や行動にまで変革を迫ったのです。

 PwCアドバイザリーはM&Aなどを通じ、顧客企業の価値を向上させることに取り組んでいます。これまでは企業の売り上げや利益をKPI(重要業績評価指標)の第一としてきました。今はそれに「社会的責任の遂行」という視点を加えています。その実現がなければ、持続的な企業価値の向上はおぼつかないからです。多くの経営者が従業員の働き方をはじめとする社会的貢献に関心を持ち始めています。昨年7月、新たに「Value Creation Infrastructure&Urban Renewal」という組織を、ESGやSDGsへの取り組みを含む長期的な企業価値創造を支援する目的で立ち上げました。「正しいことをやる」という原点に返る。ジェンダー平等は正しい。だからそれを実現したいと真剣に思う企業をサポートしています。

――経営者や企業の意識が変われば、女性の働き方も変わりますね。

吉田 そうです。女性の働き方の潮目が、明らかに変わりました。会社に行かなくても仕事ができるとなれば、新たな可能性が生まれてきます。子育てや家事をこなしながら仕事をしやすくなったり、通勤時間がなくなることでこれまで取り組めなかった自己研さんに時間を割いたりできますからね。本来、子育てや家事は性別を問わずに行うものですが、実際には、女性が家庭の事情で仕事を離れたり、やりたい仕事に携われなくなったりするケースがまだまだ多い。なので、今回のリモートワークをはじめとする働き方の変化は、女性たちに新たなチャンスをもたらすと思います。もちろん、個人が自らの働き方をマネジメントしなければなりませんから、個々の成果の格差が発生するリスクもありますけれどね。

――経営者や経営幹部の意識が少しずつ変わってきたとはいえ、相変わらずアンコンシャス・バイアスを抱える男性は多い。口では「女性の時代だ」とか言っておきながら、実際の行動や考えは違っていたりします。

吉田 そうした点があるのは否定できませんね。日本の社会が長年それでよしとしてきた。ステレオタイプな考え方を引きずっている年配の男性はまだいます。それに苦しめられている女性がいることも事実です。

 ただ、これがリモートワークの浸透で変わりつつある。しかも、社会全体で。これは大きな前進でしょう。

 さらに、勇気づけられるのが20~30代の男性たちです。彼らは年配者に比べ、自らが育児や家事を担うことに抵抗がありません。むしろ、それが当たり前だと思っている人が多い。実際、PwCグループの男性たちを見てもそうです。女性上司のもとで働くことも、多数の女性たちとチームで働くこともなんとも思っていません。彼らの世代がこれからの企業文化、社風を作っていきます。LGBTQも含め、まさにダイバーシティな会社になっていくのです。コロナ禍は世界中に深刻な影響を与えていますが、これがきっかけとなって、社会が生まれ変わりつつあるのも事実なのです。

「ジェンダー平等は正しい。だからそれを実現したいと真剣に思う企業をサポートしています」(吉田氏)
「ジェンダー平等は正しい。だからそれを実現したいと真剣に思う企業をサポートしています」(吉田氏)