「聴く力」の必要性を強く感じたエール取締役の篠田真貴子さんが出合った1冊の本。前書きを読んだだけで「いま私が考えていることがたくさん書いてある!」と興奮したといいます。著者は『ニューヨーク・タイムズ』を中心に米英の有力紙で活躍するジャーナリストのケイト・マーフィ。彼女が大量の文献を読み、数多くのインタビューを行ってまとめた本を篠田さんが監訳した書籍『LISTEN 知性豊かで創造力がある人になれる』から、一部を抜粋・編集して上・下記事でお届けします。

聞き上手は、人を惹きつける

 ジェニー・ジェロームはアメリカ社交界の著名人で、ランドルフ・チャーチル夫人としても知られていました。そう、イギリス首相ウィンストン・チャーチルの母です。

 彼女は回顧録の中で、イギリスの政治家で最大のライバル同士であるベンジャミン・ディズレーリとウィリアム・グラッドストンについて、それぞれと食事したときのことをこんなふうに描写しています。

 「グラッドストンの隣に座ったあとにダイニング・ルームを出るとき、彼をイングランドでもっとも賢い男性だと思いました。でもディズレーリの隣に座ったあとは、私がもっとも賢い女性だと感じました」(注1)

 彼女が自分を賢いと感じさせてくれるディズレーリと話す方を好んだのは、当然です。

 保守党党首として2度、イギリス首相を務めたディズレーリは雄弁家でしたが、同時に熱心な聞き手でもあり、人に気を使い、巧みに話し相手の方へと会話を導きました。おかげでビクトリア女王からも寵愛(ちょうあい)されました。女王は選挙中、あからさまにグラッドストンよりもディズレーリを好んだために、中には憲法違反ではないのかという人もいたほどです。

 ディズレーリが細やかな注意を向けていたのは、貴族社会と王族に対してだけではありませんでした。

 イギリスのロンドンを拠点にする日刊紙『ザ・タイムズ』が、まるで彫刻家が「大理石の中から天使」を見出せるように、ディズレーリは労働者の中から保守党支持者を見出すことができる、と書いたのは有名な話です(注2)。