ヘタな聞き手は「ずらす対応」を、優れた聞き手は「受けとめる対応」をしている

 ディズレーリは、ボストン・カレッジの社会学者チャールズ・ダーバーが「受けとめる対応」と呼ぶものの達人でした。

 ダーバーは1970年代から、人づきあいの場面において、人がいかに注目を得るためにふるまったり競い合ったりするかについて、関心を寄せ続けています。

 夕食でのカジュアルな会話を100件以上録音して書き起こしたダーバーは、そこに2種類の対応があるのを見出しました(注3)。

 このふたつのうち、より一般的なのが、「ずらす対応」です。これは、注意を話者から応答者(聞き手)の方へと向けるものです。

 もうひとつ、比較的少ないもので、ディズレーリが長けていたのが「受けとめる対応」でした。これは、応答者がもっと深く理解できるように、話者にさらなる説明をうながすものです。例として、こんなやり取りがあります。

ジョン:うちの犬が先週、いなくなっちゃったんだ。見つけるのに3日かかったよ。
メアリー:うちの犬はいつもフェンスの下を掘っているよ。だからリードをつけないと外に出せないの。(ずらす対応)

ジョン:うちの犬が先週、いなくなっちゃったんだ。見つけるのに3日かかったよ。
メアリー:えーそうなの。で、結局どこで見つかったの?(受けとめる対応)

スー:ゆうべ、すごくおもしろい亀のドキュメンタリーを見たの。
ボブ:ドキュメンタリーはそんなに好きじゃないな。俺はアクション映画の方が好き。(ずらす対応)

スー:ゆうべ、すごくおもしろい亀のドキュメンタリーを見たの。
ボブ:亀? へえ、どういう流れでそれ見たの? 亀好き?(受けとめる対応)

 優れた聞き手は常に、受けとめる対応をします。

 受けとめる対応は、(書籍の第5章で説明した)「話を受けとめたうえで、意味づけしたフィードバックを返す」のに重要ですし、(書籍の第9章で取りあげた)誤解を避けるためにもやはり重要です。