「聴く力」で組織をエンパワーし続ける、サンリオエンターテイメント代表取締役の小巻亜矢さんとエール取締役の篠田真貴子さんが、「聴く極意」を語り尽くす全5回の連載。第4回では、二人が聴く上でどんなことを心がけているのか? 聴くときの心構えについて聞きました。

思いを肯定できなくても、受け止めることはできる

編集部(以下、略) お二人が人の話を聴く上でどんなことを心がけているのか、教えていただけますか?

小巻亜矢さん(以下、小巻) やはり相手が話をしてくれたことに対して、「否定しない」ことが一番のポイントかなと思います。相手の言葉に反応して即座に否定すると、心の扉が閉まってしまいそれ以上話してくれなくなるものです。なので、徹底的に否定しない。「嘘でしょ?」って思う言葉が飛んできても、「そうなんだね」っていったん受け止めることが大切だと思います。

 極端な例ですが、相手から「私、もう死にたいんです」と言われたとしましょう。普通なら「そんなこと言わないでよ! あなたが死んだら皆悲しむじゃない!」と思いっきり否定したくなりますが、そこでぐっとこらえて「そうなんだね。〇〇さんは今、そんな風に言いたくなるぐらいの気持ちなんだね」って、いったん受け止めるんです。その上で「何があったのかな? よかったら聴かせてくれない?」とじっくり掘り下げていくと、本心を話してくれることが多いんですね。

 部下やチームメンバーから「会社を辞めたい」と言われる時もそう。「えっ辞めないでよ!」といきなりはねつけると、「いや、もう決めたことなんで」と余計にかたくなになってしまいます。「そうなんだね。どうしてそう思うようになったの?」と相手の言葉を受け止めながら問いかけていくと、冷静に理由を話してくれることも多いです。まだ決めかねている人なら、考え直してくれる可能性もあると思います。

「学生時代に話し方を教わる機会はあっても、聴き方を教わったことはない。聴き方も話し方と同じようにバリエーションがあって、その場に応じた適切な聴き方はあるはずですよね」(左/篠田さん)、「聴く力は生きていく上でとても大切なスキルなのに、学校や職場で体系立てて習っていないというのも不思議です」(右/小巻さん)。二人は「聴く」を学ぶことが重要だと話します
「学生時代に話し方を教わる機会はあっても、聴き方を教わったことはない。聴き方も話し方と同じようにバリエーションがあって、その場に応じた適切な聴き方はあるはずですよね」(左/篠田さん)、「聴く力は生きていく上でとても大切なスキルなのに、学校や職場で体系立てて習っていないというのも不思議です」(右/小巻さん)。二人は「聴く」を学ぶことが重要だと話します

篠田真貴子さん(以下、篠田) 私も「相手の言葉を否定しない」というのはとても大事だと思っていて。小巻さんのように習慣化まではできていないのですが、日々意識するようにしています。

 「そうなんだ」と受け止めるのって、相手の言葉を肯定しているように感じるかもしれませんが、決してそうではなくて。あくまで「あなたはそう言っていますね」という事実を受け止めているだけなんですよね。でも、会社を辞めたいと言われて「そうなんだね」と口にしてしまうと、相手の言っていることを肯定しているかのように感じてしまって、とっさに「辞めないで!」と返してしまう……。私も「そうなんだね」と言えなくて、ついつい否定の言葉で反応しそうになることがあります。

 逆に、本当は辞めてほしくないのに無理に相手の思いに共感しようとして、「そうだよね。仕方ないよね」と、自分の思いと裏腹な答えを言う人もいるかもしれません。「共感することが大事だから、相手の思いに合わせなければ」と思っていると、聴くこと自体がすごく苦しいものになってしまいます。そうではなくて、自分の思いや考えは一切挟まずに、ただただ「この人はこういう思いなんだな」とありのまま受け止める。そういう共感の仕方もあると思うんです。

小巻 相手からのボールを肯定でも否定でもなく、まず受け取って、「さて、このボールをどうしようか」と、一緒に考える感じでしょうか。そのほうがお互いにとってストレスが少ない上に、実り多い対話になりますね。

―― 日々一緒に仕事をしている直属の部下やチームメンバーなど、すごく近しい間柄の場合はどうでしょう。冷静かつフラットな心で聴くことはなかなか難しいのではないかと。