「聴く力」で組織をエンパワーし続ける、サンリオエンターテイメント代表取締役の小巻亜矢さんとエール取締役の篠田真貴子さんが、「聴く極意」を語り尽くす全5回の連載。第3回では、なぜ職場で「聴く」が重要なのか? 二人の実体験をもとに語ってもらいました。

職場に個人的な気持ちを持ち込むのは悪いこと?

編集部(以下、略) お二人は「聴く」ことを通して組織の活性化を図っていますが、なぜ職場で「聴く」ことが重要なのでしょう?

篠田真貴子さん(以下、篠田) 職場だと社長や部長、あるいは営業部の社員、人事部の社員というように一人ひとりのことを「役割」で見てしまいがちです。職場によっては役割を演じることに意識が向きすぎてしまい、自分の個人的な気持ちを持ち込むことはナンセンスだと引っ込めてしまう場面も多々あると思います。その一方で、会社からは「モチベーションを向上させることが大事」とか「パッションが必要」などと“気持ち”の部分が重要視されて、なんだか矛盾を感じてしまいますよね。

 確かに職場においては、役割は当然あるにしても、“一人の人”としてそこにいて、それぞれがいろんな思いを抱えて働いていると思うんですね。でも、その思いや気持ちの部分を脇に置いてプロジェクトを進めていこうとするから、お互いの意図が分かりづらくなって、業務が硬直してしまうケースもあるのではないかと。

 逆に言うと、相手の意図が明確になれば、仕事はとてもやりやすいものになります。なぜ、〇〇さんはこの企画を強く推し進めようとしているのか? なぜ「急いでくれ」と言っているのか? 「根底にそういう思いがあったんだ」と分かれば、納得して前に進みやすくなるのではないでしょうか。

篠田さんが監訳した『LISTEN――知性豊かで創造力がある人になれる』(ケイト・マーフィ著、日経BP刊)が2021年8月5日に発売予定。「話を聞くということは、自分では考えつかない新しい知識を連れてきます。また、他人の考え方や見方を、丸ごと定着させもします」(『LISTEN』より)
篠田さんが監訳した『LISTEN――知性豊かで創造力がある人になれる』(ケイト・マーフィ著、日経BP刊)が2021年8月5日に発売予定。「話を聞くということは、自分では考えつかない新しい知識を連れてきます。また、他人の考え方や見方を、丸ごと定着させもします」(『LISTEN』より)

小巻亜矢さん(以下、小巻) おっしゃる通りですよね。私も役割や立場を超えて、一人の「個」として思いを「聴く」ということが、よりお互いの関係性を深め、安心して働ける環境にもつながっていくと思います。その人が今どんな状態で、どんな思いを抱いているのか? 職場での何気ない会話や1対1の面談の中で知っておくことによって、例えば相手がピンチに陥った時に素早くフォローができると思うんですね。

 「個」を大切にするという意味では、私は呼び方も役職ではなく、名前で呼ぶようにしています。人は自分の名前を呼ばれると幸福度が上がるという研究結果もありますが、私も社長と言われるより、亜矢さんとか、小巻さんと言われるほうがすごくうれしいんです。「部長」ではなくて、「〇〇さん」という一人の人として話をすると、その人の全体像が見えてきてコミュニケーションの濃度も上がってくると思います。