稼いだお金で、プライベートタイムにひとりで好きなことをする。当たり前のそんな行為を、なぜかためらってしまうことはないでしょうか? 誰も制限などしていないのに、やりたいことに自らブレーキをかけてしまうのはナンセンス。知的好奇心の赴くままエネルギッシュに活動するひとり時間使いの達人・湯山玲子さんが、さまざまな切り口で「自由を楽しむこと」の本質に迫ります。

 コロナ禍はまだまだ続いているが、諸事情が緩和されてきたので、フランスはストラスブールで開催されている現代音楽祭「musica」に出向いた。演奏家に知り合いはいたのだが、基本ひとり旅。ちなみに漠然とした観光ではなく、何か目的がある場合、ひとり旅はがぜん多くなる。なぜならば、「ヤバい現代音楽祭があるから、ちょっと一緒に行かない?」という急な誘いに乗ってくるような友人は、周囲にあまりいないからだ。若者はおカネとヒマがなく、同年代では好奇心と体力がない。

 海外のひとり旅は、インターネットとSNSの発達でものすごく楽になった。何かとこちらの常識と違う場面に遭遇するのが海外旅行だとすると、同行者の存在はそれらに一緒になって立ち向かっていけるという心強さの保険。しかし、ホテルや移動、公演のチケット取得、レストランの予約などの「面倒くさいシステム」が、ネットですべてクリアに解決できてしまうならば、その保険はいらない。時差の問題はあるが、何か問題が起こったときには、LINEのメッセージや電話で日本の知り合いに解決してもらうこともできる。

海外旅行はいっそう「スマートフォンありき」に変化

 海外渡航に必ずついてまわる言葉の問題だが、知り合いにこんな話を最近聞いた。彼女は海外の現代美術のアーティストとの仕事上のやり取りをスタッフに任せているが、英語がそんなに得意ではない人間でも、ネットの翻訳精度がものすごく上がっているので、日本語の入力→変換でスピーディーに事が進められるというのだ。中国圏とのやり取りも、日本語→中国語で全く支障なし。タクシー内のCMで頻繁に流れてくる、通訳ツールのポケトークも、実際に使ったことはないが、病院やトラブルの際のコミュニケーションにものすごく役に立ちそう。ヨーロッパの地方都市は思ったよりも英語が通じないので、海外ひとり旅が心配な人は持っていくと安心かも。

 私が編集者として海外での仕事を始めたのは、まだ電子メールが一般化される前の90年代前後だったので、その時分の準備や手間、リスク、そしてコスト高の通信費を考えると夢のような話だ。特にコロナ禍を経た今回、より旅がスマートフォンありきに変化しているということを実感。ワクチン3回の接種証明書、MySOSという入国者健康居所確認の両方はアプリが基本であり、スマホを持っていない人は、日本入国時に自己負担でレンタルしなければいけない、と突き放すまで現実は変化している。

 ちなみにこれから欧州渡航する人にとって超重大情報を以下に記すことにする。上記アプリ2つの提示は、空港で日本行きの便をチェックインするときから必要で、それがそろっていないとなんと搭乗を拒否されるというとんでもない事態に陥るのだ。全く事前情報がないMySOSをその場で言われてダウンロードし、事なきを得たが、問題はそういった情報が羽田でどこにもアナウンスされていないということで(だってこれ、日本のアプリですよ!)、これスマホを持っていない人ならば完全にお手上げ状態なのでご注意を。

ストラスブール。夜の散歩でふらり入ってひとり酒したしゃれたバー「La Mandragore(マンドレイク)」、その名の通り、インテリアが大好物の澁澤龍彦系
ストラスブール。夜の散歩でふらり入ってひとり酒したしゃれたバー「La Mandragore(マンドレイク)」、その名の通り、インテリアが大好物の澁澤龍彦系