稼いだお金で、プライベートタイムにひとりで好きなことをする。当たり前のそんな行為を、なぜかためらってしまうことはないでしょうか? 家族や会社のために時間を使うことに慣れ過ぎてしまったせいか、はたまた「ひとり=寂しい人」バイアスで周囲の目が気になるからか。誰も制限などしていないのに、やりたいことに自らブレーキをかけてしまうのはナンセンス。知的好奇心の赴くままエネルギッシュに活動するひとり時間使いの達人・湯山玲子さんが、さまざまな切り口で「自由を楽しむこと」の本質に迫ります。

かつて、「女ひとり寿司」は冒険だった

 私の著作の中に『女ひとり寿司』というエッセーがある。題名の通り、女がひとり(私です)が、お値段3万円以上の高級寿司屋に行って、寿司のお味はもちろんのこと、店のしつらえやサービス、そしてここが肝心なのだが、寿司屋のカウンターというハレの舞台に来ているお客たちの生態を観察するという内容である。

 これ、実は女性月刊誌『ヴォーグ・ニッポン』(現ヴォーグ・ジャパン)が初めて日本上陸したときからの連載で、1999年当時の高級寿司屋といえば、ザッツ・メンズワールド、つまり男の領域だった。当時はまだ、日本の男性優位かつ年功序列の会社システムは疑問を持たれながらも継続中。そう、分かっちゃいるが、止められない!ってね。

 さて、そんな中の高級寿司屋というのは、会社の接待文化のひとつに組み込まれており、男同士の腹を割ったビジネストークの現場でもあった。女性客はといえば、妻か恋人か愛人か同伴ホステス等々、男性に連れてきてもらう存在であり、若い女性同士、という客もたまに見かけるが、「お呼びでない」感満載。まして、一見(いちげん)の女ひとり客という存在は非常に珍しく、私は著作の中で「女ひとり寿司行為は、植村直己よりも冒険家」と書いたものだった(植村直己を知らない人はWikipediaに飛んでください)。

 あれから、20年あまりもたち、女性の社会進出は莫大(ばくだい)に増え、高級寿司屋のカウンターには、ベンチャーの社長や株でもうけていそうなロン毛の姿が増え、企業の接待モードは薄れてきている。おまけにぐるなびなどのグルメ情報&予約文化が定着した今、高級寿司屋に女がひとりで行ったとしても当時ほどの冒険感はない。私自身もひとり寿司を続けているが、現場でご同輩に出会うことも増えてきた。

2022年5月3日に渋谷PARCOの屋上ほかで行われた、湯山さん主宰の「爆クラは祝100回なのだクラブ耳クラシック&現代音楽フェス」のフィナーレにて。イベントを盛り上げたドラァグクイーンの皆さんに囲まれてごあいさつ
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