香川県・小豆島に移住した文筆家の内澤旬子さんは2016年、交際相手からストーカー被害を受けるようになりました。その恐怖と闘った一部始終を著書『ストーカーとの七〇〇日戦争』(文芸春秋)につづったものの、そこで見えたのは現行法の限界。ストーカー規制法を被害の実態に合ったものにしてほしいと動き始めたところ、評論家の荻上チキさんから「それ、手伝います」と思いがけないメールが届きました。法改正に向けて走る日々を振り返りながらつづります。

荻上チキさんの驚くべき知識と理解力

 荻上チキさんと初めてお目にかかったのは、何年前になるのだろうか。TBSラジオの『ニュース探求ラジオDig』にゲストとして呼ばれたときのパーソナリティーだったのか、その後番組が『荻上チキ・Session-22』になってからだったのか。はっきりしないのだが、10年くらい前のことになる。新刊を出すたびに呼ばれ、楽しく話をさせていただいた。

 その後朝日新聞の書評委員でご一緒したのだが、なかなか重厚な場で若手に属する(?)われわれは、特に私語を密に交わす機会もなかったように思う。

 『ストーカーとの七〇〇日戦争』を出版したときには2回にわたって取り上げてくださった。特に2回目はストーカーが行動依存であることを知り、医療介入が被害者の安心安全のために必要であることが判明するくだりを、カウンセラーの小早川明子先生と私のダブルゲストにして詳しく紹介してくださった。

 「“神回”なんじゃないですかね」と単行本編集者がうなるほど丹念に、そして分かりやすくストーキングの病態と、加害者治療、主に条件反射制御法について紹介することができた。

 そもそも重度のストーキングが治療の必要な精神疾患であることを理解する人が少ない中で、チキさんは、ストーカーは違法薬物や窃盗など一見性質が違う触法行為と同じ「依存症」であり、本人の意志に反して反復してしまうことをきちんと理解して話を進めてくださった。違法薬物所持で逮捕された芸能人やスポーツ選手の報道のあり方に対して「依存性の疾患」であることを踏まえた配慮を求める発信をされていたので、よくご存じなのだろうと予想はしていたけれど。

 本を出してからたくさん取材を受けて記事にしていただいたが、チキさんの知識と理解度がずばぬけていたのは確かだ。

一般社団法人 社会調査支援機構チキラボを立ち上げた荻上チキさん。社会課題の解決に取り組んでいる
一般社団法人 社会調査支援機構チキラボを立ち上げた荻上チキさん。社会課題の解決に取り組んでいる

心強い助っ人も紹介してもらえた

 しかし、いくらストーカー問題についての知識が豊富であったとしても、法改正を目指すアクションを共にと言っていただけるとは全く予想していなかった。それとこれとは別だろう。社会にはたくさんの問題が山積しているのだから。もっと緊急の課題や動かねばならない問題を優先して当然だ。「もしストーカー問題にご興味のありそうな議員をご存じであれば、お名前を教えてくださるだけでも」という私の発信に対して、「手を貸します」と言ってくださったのは、本当に寝耳に水だったのだ。

 メールには「PRを手伝ってくださる若林直子さんという女性を紹介いたします」と続いていた。なんでもブラック校則のキャンペーンの時に一緒に活動されたのだとか。ジャーナリストの伊藤詩織さんのマネジメントにも関わっているそうだ。

 なるほど、ブラック校則キャンペーンには広報のプロが関わっていらしたのかと納得する一方で、そんなに簡単に手間と労力のかかることをお願いしてよいものだろうかと心配になる。それと世論に大きく訴えるということは、ちまちまコッソリと国会議員に会って話をするということとは次元が変わる。うんと大きく私が被害者として物申すという姿勢を打ち出していくことになるのだ。