香川県・小豆島に移住した文筆家の内澤旬子さんは2016年、交際相手からストーカー被害を受けるようになりました。その恐怖と闘った一部始終を著書『ストーカーとの七〇〇日戦争』(文芸春秋)につづったものの、そこで見えたのは現行法の限界。内澤さんの場合は、ストーカー規制法の対象になりませんでした。その理由とは? 被害から4年、法改正を求めて内澤さんは再び行動を始めることになったのです。

 「GPS装置を使った監視がストーカー規制法によるつきまとい行為にはあたらない」という最高裁判断が出てから1カ月が経過した、2020年8月末。この判断を問題視する声が一向に聞こえてこないことに、私は1人で鬱々としていた。判断が出た当初に新聞が取り上げただけで、その後は特に話題にもなっていない。なんで誰も声を上げないのだろう。

メールを読み返すだけで恐怖がよみがえる

 『ストーカーとの七〇〇日戦争』を発表してから2年。少しはストーカー被害者が対面している問題が世の中に知られただろうか。

 それが全然。司法に加害者への治療を取り入れることは、法システムの骨組みから変えなきゃならないくらい大変なことなのは分かっている。一部の自治体で、被害者からの相談を受けて県警察が加害者にカウンセラーや病院を紹介する試みを始めたという新聞記事は見かけた。けれども治療につながる割合はたったの2割止まり。その後、改善への取り組みに関する続報もなく。

 本を書いたくらいでは、なんにも変わらない。でも本を書く以外に自分にできることもない。ちょうどGPSを使った監視行為についての最高裁判断が出たのと同時期に、加害者治療の必要性を被害者が訴えるという番組からの取材依頼があったので、喜んで受けた。

 ところが。番組構成に使うために、保存していた加害者からのメッセージを引っ張り出して閲覧しているうちに、精神状態がどんどん不安定になって苦しくなっていった。PTSD(心的外傷後ストレス障害)だそうで。不安でヤギたちの世話以外なにも手に付かなくなった。ヤギたちがいなければベッドから降りなかっただろう。少ない仕事もどんどん遅れていく。

SNSに送られたメッセージを読み返すうちに恐怖がよみがえり、ペットのヤギたちの世話以外、手に付かなくなった(写真/内澤さんinstagramより)
SNSに送られたメッセージを読み返すうちに恐怖がよみがえり、ペットのヤギたちの世話以外、手に付かなくなった(写真/内澤さんinstagramより)

 「そりゃあ読み返したらそうなるわよ」と小早川明子先生に言われた。ストーカー事案を多く扱うカウンセラーの小早川先生には被害当時から大変お世話になった。

 事件から4年もたっているのに、こんななのか。刺されたわけでもないのに? 元の暮らしや能力にはもう戻れないのだろうか。自分が情けないやら悔しいやらで、叫び出したくなる。

別れ話に逆上して交際相手がストーカーにひょう変

 私がストーカー被害に遭ったのは16年。交際相手と別れようとして逆上され、SNSによるメッセージが止まらなくなった。しかも脅迫的な文言が頻発したため警察署に相談に行き、日を置かずに相手は私の居住地に来たので確保され、注意を受けたものの逆上。警察から被害届を出すことを勧められた。