動機は「恋愛感情」に限定される?

 せめて出所してくるときに禁止命令を出してもらえないのか。傷害などで逮捕されたストーカーが出所するときに禁止命令を出してもらえた例があると小早川先生から聞いて、仮出所日が決まった時点で警察にもう一度相談に行ってみた。小豆警察署は香川県警本部に掛け合ってくださった。で、県警本部の見解はというと

 「2回目の犯罪に関しては憎悪によるもので、恋愛感情に由来するストーカー規制法のつきまとい行為には当たらないため禁止命令は出せない」というのだった。

 はい? 恥ずかしながら、つきまとい行為の定義を読むだけで気持ちが不安定になってしまうため、それまでストーカー規制法の条文をまともに読んだことがなかった。恋愛や好意の感情に基づく動機? 動機で適用が決まると? 意味が分からない。

 ともあれ、禁止命令を出していただけないのなら、自衛で固めるしかない。ストーカーの怒りや衝動を増幅させない話術を持つ小早川先生と契約し、何かがあったら対応してもらうという保険を作ることで、その後の著作活動がなんとか可能となった。

条文の単語一つが変わるだけで救われる人がいる

 そして20年秋、東京新聞社会部記者の出田さんからストーカー規制法改正についての原稿依頼を受けた。「GPSに関しての最高裁判断以降、あまり動きがなくて」という。そう思ってくれている人がいると分かってうれしい。

 私の場合は警察に全く守ってもらえなかったわけではない。警察も検察も、法律や制度の範囲内ではきっちりと動いてくださり、守ってくださった。そのことには感謝している。けれどもSNSをめぐる法改正が遅く、数日の差で適用されなかったために、接近禁止命令を出してもらえないのも、事実だ。法律の条文、単語一つ変わるだけで、恐怖におびえる被害者が救われることを、身をもって知った。私は救われない側だったけど。ならば、早く法律を変えるために何かしたほうがいいのでは?

 しかし。しかしだ。それはいわゆる政治運動になるのではないだろうか。私にそんな人間力が膨大に必要な活動ができるのか。デモに行くどころか署名にすら逃げ腰な人間なのに。そもそも恐怖が染みついてとれないポンコツ脳みそになっているのだから、おとなしく寝込んでいた方がいいのではないか。

 けれども。改正を急いでほしいという記事は、書くことができた。科学技術が進歩すればストーキング手段も変わる。動機だって、SNSの普及、特にInstagramが普及することで、全く見知らぬ人から恋愛や好意の感情とは関係なく粘着されることも珍しくなくなっているように思える。現状に合わせて法改正を急いでほしい。そして加害者治療も進めてほしい。