知っているようで知らない自分の体のこと。女性ホルモンが減少する40代50代は自分の体の変化にとまどうこともあります。気になる性の悩みや体の変化について、産婦人科医でもあり、性科学者でもある宋美玄さんがフラットに語ります。今回のテーマは「性の医学」です。

彼から「お前の体はヘンだ」と言われた

 初めての自著『女医が教える 本当に気持ちいいセックス』を出版したのは今から11年前。まさか売れるとは思わなかったけれど50万部を超えるベストセラーになりました。この本を書くきっかけになったのは、多くの患者さんからの悩み相談でした。

 私はわりと気楽に話しやすいようで、研修医時代から患者さんから性にまつわる悩みを相談されることがよくありました。「セックスすると痛いんです。どうしたらいいですか」「彼氏からお前の体は変だと言われました。どこかおかしいですか」など。そこで、気づいたんです。医学部で6年間教育を受け、産婦人科専門医に向け試験勉強もして、研修も受けたけれど、性行為について学術的に習う機会が全くなかったということに。医学書を調べても、性交痛については子宮内膜症ぐらいしか記述がありません。海外で出会った産婦人科医に聞くと、性機能について専門教育で習うというのに、日本では学習する機会がないのです。

 同僚の医師に聞いてみると、「ムードの問題じゃないですか」とか「もっと気分を盛り上げたら痛くなくなりますよ」などと答えているようでした。でも、気分の問題にしてしまうことは、求められている答えではないですよね。患者さんにとって膣(ちつ)やデリケートゾーンは性行為を行う部分でもあります。産婦人科医として、その相談に応えられないのは残念だと思いました。

性の悩みを相談できるところがない(写真はイメージ)
性の悩みを相談できるところがない(写真はイメージ)

 それで当時勤めていた大学病院にいた医師に紹介していただき、日本性科学会に所属することにしました。女性の体はどういう構造になっていて、性反応はどう起きるのか――解剖学や生理学を踏まえて、性行為を医学として学んでいきました。そうするうちに、「これはすべての女性が知っておいたほうがいいのではないか」と思ったのです。患者として来てくれる女性だけではなく、世の中の悩めるすべての女性に知ってもらいたい、と思うようになりました。