「人の役に立ちたい」「社会貢献したい」という想いを、住まいの活用で実現

 ARIA世代が近い将来迎えるシニア期。そのとき、いかに豊かな気持ちで日々を過ごせるか――河崎さんはそのキーワードとして「人や社会への貢献」を挙げます。

「私がシニアライフを考えるとき、テーマにしていることの1つに『人に役立つ暮らし』があります。子育てという役割を終えた後、改めて世間を見つめ直し、『人や社会の役に立ちたい』という想いを持つ人は多いようです。誰かの役に立てたとき、社会に貢献できたと実感するとき、人は幸せを感じられるものだと思います。私は今、『エシカル消費』『フェアトレード』に興味を持っています。そういった商品を取り扱っているお店で、ブラジルの小さな村で作られた空き缶のプルタブをリサイクルしたバッグを購入したのですが、そのバッグを持っているとき、幸せを感じます。社会貢献の形はさまざまですから、『自分は誰の役に立ちたいか』を考え、行動を起こしてみるといいのではないでしょうか」

※エシカル消費/環境や社会問題の解決につながる商品を積極購入する活動
※フェアトレード/発展途上国の原料や製品を適正価格で購入し、労働者の生活改善につなげる活動

 そして、住まいを活用して社会貢献をする道があると、河崎さんは提言します。

「ある80代の知人は、大きなお屋敷に住んでいるのですが、1人きりなので、普段の生活には8畳間1室しか使わないそうです。この方のように、高齢期に単身で暮らすようになり、住空間をもてあますケースが増えていくことでしょう。そこで、大切になるのが『地域に開く暮らし』です。家の中で使わないスペースを、地域の人にオープンにし、活用してもらうのも1つの解決法ですよね」

 河崎さんが例として挙げるのは、「地域住民が集まるカフェ」「子ども向けライブラリー」「サークル活動などに利用できるレンタルルーム」「自分の趣味を発信するアトリエ」など。外国人の訪日が増える中、ルール整備が進めば「民泊」といった活用も考えられます。プライベートの居住空間と切り分けたいなら、玄関・水回り設備を独立させ、専用に設けておくのも手です。

「自宅の一部を開放し、人々が出入りして交流できる場にすることで、喜ばれるだけでなく、自分自身の孤独感を解消することもできます。地域や外部の人に『開いた』ライフスタイルを送るなら、アクセスしやすい戸建ては自由度が高く活用の幅も広がります。シニア期に、夫婦2人だけになっても、たとえ1人きりになったとしても、住まいを活用することで多くの人と交流を持ち、楽しく暮らしていくことができる。そんな可能性を皆さんにお伝えしたいし、実現するプランニングのお手伝いをしていきたいと思います。私たちの研究所のメインテーマは『住めば住むほど幸せ住まい』。家を購入したときが幸せの頂点ではなく、経年とともに、住まいに散りばめられている多くの幸せを見つけていただきたいですね」

取材・文/青木典子 写真/太田未来子