企業は新卒者を採用し、65歳の定年まで雇い続ける――少し前まではごく当たり前だったこの雇用スタイルがもはや時代に合わなくなっていると指摘するのは、経済学者で東京大学大学院教授の柳川範之さんです。柳川さんが提唱する、個々の働き手にとっても企業や日本経済全体にとっても好循環をもたらすという「40歳定年制」について、日経ARIAの羽生祥子編集長がインタビューした濃縮全3回シリーズ。第2回は「適材適所を見つけて柔軟に動けるのはどんな人か」です。

(1)「40歳定年制」はなぜ日本企業に必要か
(2)「社内失業者」にならない、させない組織の仕組み ←今回はココ
(3)人材を囲い込むのは逆効果 「ここにいたい」と思わせよ

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東大柳川教授 「40歳定年制」はなぜ日本企業に必要か


今の社会に合うのは「人生三毛作」の働き方

羽生編集長(以下、――) 先生の「40歳定年制」という提言は、その言葉のインパクトもあって「40歳でクビにするなんて!」と当初は拒否反応も多かったということですが、誤解を生みそうな「定年」という言葉をあえて使ったのはなぜでしょうか。

柳川範之さん(以下、敬称略) 適材適所で人が柔軟に動いていけるような仕組みに変えていくことを考えるときに、極端なことを言えば、すべて年俸制にして、毎年どこの会社でいくらで働くかを契約更改するといったやり方も考えられます。

 ただ、それでは落ち着いて働けないですし、チームで仕事をすることを重要視している日本にはなじまない。そうなると、20年くらいのかたまりでライフサイクルや仕事を考えていくことが一つの典型例になるのではないか。ざっくりと20歳から20年で40歳、そこからさらに60歳、80歳という感じで、いわば「人生三毛作」の働き方です。

―― 先生は20年間というスパンを「中期雇用」と言っていますね。

柳川 はい。現行の雇用制度では、これを実現することはなかなか困難です。無期雇用というのは定年まで雇用するということで、その期間を短くすることができません。もちろんリストラなどはあり得ますが、いわゆる短期の非正規雇用みたいなものでなければ、一挙に定年までの雇用になってしまう。中期雇用を作ろうとすると、定年を短くするというパターンを作らざるを得ないのではないかということで、「40歳定年制」という言葉を選びました。

―― 現実には、「3年満期(派遣社員)」か「65歳定年(正社員)」みたいな、ものすごく極端な2択ということですよね。特に女性はこの2つの扉をいつも突き付けられている。私も二人の子どもの育休から復帰する時、この2択しかないというのは不自然だなあと、直観的にいつも感じていました。

「適材適所で人が柔軟に動いていけるような雇用のしくみを考えるとき、20年くらいのかたまりでライフサイクルや仕事を考えていくことが、一つの典型例になるのではないでしょうか」
「適材適所で人が柔軟に動いていけるような雇用のしくみを考えるとき、20年くらいのかたまりでライフサイクルや仕事を考えていくことが、一つの典型例になるのではないでしょうか」