印象的な赤く塗られたらせん階段を上ると、そこが店内です。向こうまで見通せるので、文化会館全体の雰囲気が伝わってきます。開館と同時にオープンして以来、老舗の上野精養軒ならではの西洋料理が供されています。特に約1週間かけてつくるドミグラスソースのこだわりは格別。加えて数々の名演で知られる東京文化会館ですから、本格的なメニューをそろえ、上演プログラムに合わせた特別メニューも並びます。
時間をかけて複雑な条件に挑み、つくり上げた空間
こんな透明な箱の一体どこで、調理を行っているのでしょうか。実は、本格的な厨房が地下に設計されています。できたての料理は、専用の昇降機によって2階に運ばれて、てきぱきと給仕されます。地下にはもう一つ、関係者専用のレストランも設けられています。公演の準備の最中、外に出ることが難しい出演者などに配慮したものです。
ここには機能と人間の心理を重視して、細部から建物、周辺環境まで、長い設計時間をかけて、複雑な条件を明晰(めいせき)に解いてみせる建築家・前川の神髄があります。そして、オリジナルの形を大事に「レストラン フォレスティーユ精養軒」が今日も大切な役割を果たしているのは、1876年から上野公園内に本店を構える上野精養軒の長い経験のたまものです。食も建築も、かけた時間が、流行に左右されない揺るぎなさを生み出しています。
設計:前川國男
<お店情報>
東京都台東区上野公園5-45 東京文化会館2階
電話:03-3821-9151
営業時間:11時~19時(ラストオーダー18時半)
※ホールの公演日により営業日、営業時間が異なるため、詳細は問い合わせを
文・写真/倉方俊輔