特別な日に訪れたいレストラン、忙しい時間を忘れてゆったり過ごせる雰囲気のいいカフェ…愛されるお店には、料理はもちろん、空間にも訪れる人を引き付ける魅力があります。「建築を知ることは、人生を豊かにする」と語る建築史家の倉方俊輔さんが、食欲と知的好奇心を刺激するスポットを厳選。昭和初期の名建築から現代のモダンな空間まで、バラエティー豊かな建築の味わい方を紹介します。

川沿いの元印刷工場をベーカリー&コーヒースタンドにリノベーション

 下町風情が残る東京・八丁堀に人気のベーカリー&コーヒースタンドがあります。「Cawaii Bread & Coffee(カワイイブレッド&コーヒー)」。ビルの正面に見えるパンとコーヒーと亀のマークが目印です。自家培養酵母と国産小麦を使った手作りパンが、おいしいコーヒーと共に堪能でき、亀島川の眺めが心を癒やしてくれます。

 店名の「Cawaii」は、このお店をつくった「Cawaii Factory」にちなむもの。女性二人によるアートとデザインに特化した執筆と編集の事務所です。

 編集の業務からベーカリーカフェへと至る経緯について、お話を伺いました。

 「この近くで仕事をしていて、自分たちが行きたいと思う場所をつくりたかった。ベーカリーカフェにしたのは、このあたりにパン屋がなくて、朝早くから開いているパリのブーランジェリーのようなものがあればいいなと」。それがお店を営むきっかけでした。

 すぐに思い浮かんだのは、川沿いの場所だと言います。最初に借りていたオフィスも亀島川沿いで、川があることで空間に広がりを感じた経験があったから。探しているうち、印刷工場として建てられ、当時ガレージとして使われていた小さなビルが見つかりました。飲食もできるということで、その1階を借りて、リノベーションすることにしました。

 改修設計を手掛けたのは、日本を代表する建築家の一人である西沢立衛さんです。妹島和世さんと共に建築設計事務所「SANAA」を主宰し、2010年には建築家のノーベル賞と呼ばれるプリツカー賞を受賞しました。

「カワイイブレッド&コーヒー」。愛らしい店構えが下町にさりげなく溶け込む
「カワイイブレッド&コーヒー」。愛らしい店構えが下町にさりげなく溶け込む
パンとコーヒーと亀のロゴマークが目印(写真提供/カワイイブレッド&コーヒー)
パンとコーヒーと亀のロゴマークが目印(写真提供/カワイイブレッド&コーヒー)