特別な日に訪れたいレストラン、忙しい時間を忘れてゆったり過ごせる雰囲気のいいカフェ…愛されるお店には、料理はもちろん、空間にも訪れる人を引き付ける魅力があります。「建築を知ることは、人生を豊かにする」と語る建築史家の倉方俊輔さんが、食欲と知的好奇心を刺激するスポットを厳選。昭和初期の名建築から現代のモダンな空間まで、バラエティー豊かな建築の味わい方を紹介します。

伝統的な「ホテルらしいくつろぎ」が息づく空間

 グランドプリンスホテル新高輪の「メインバー あさま」は、1982年の開業以来、ホテルの確かな顔になっています。店名の「あさま」は、文化勲章を受けた洋画家・小山敬三の手による「紅浅間」から来ています。85歳の巨匠が描いた自由闊達な大作がホテルのロビーを飾り、その壁の向こうにバーがあります。

 そこは「メインバー」の名にふさわしい空間です。街中に独立して構えるバーとは異なる趣があります。それでいて、最上階に設けられるような眺望が売りのバーとも違います。伝統的なホテルらしいくつろぎが感じられる空間が、品川駅からほど近い場所に位置します。このことだけでも、訪れる理由として十分でしょう。

 「グランドプリンスホテル新高輪(開業当時は新高輪プリンスホテル)」を設計したのは、文化勲章を受けた建築家・村野藤吾です。開業の年に91歳を迎えた村野は、最晩年に至っても若々しい挑戦を続けました。その才気が、大宴会場 「飛天」、数寄屋造りの日本料理店「和室 秀明」など、ホテルの随所に満ちています。「メインバー あさま」は、彼の真価を凝縮して味わえる場所です。

グランドプリンスホテル新高輪
グランドプリンスホテル新高輪
ロビーの壁を飾る小山敬三の「紅浅間」。この絵の向こうに「メインバー あさま」がある
ロビーの壁を飾る小山敬三の「紅浅間」。この絵の向こうに「メインバー あさま」がある