入り口の扉上の装飾に潜む小鳥たち

 スパニッシュ・スタイルの持ち味は、小笠原伯爵邸の外観からも分かります。壁には飾りがほとんどなく、玄関も中央を外した位置にあります。左右対称で威厳を強調するわけでなく、水平の庇(ひさし)もシンプルです。伯爵の邸宅にしては、ずいぶんあっさりしていると感じるのではないでしょうか。

 けれど、近づくと素材を生かした独創的な仕事が目に入ります。入り口は上部の石にだけ、大胆な唐草文様が刻まれています。下から見上げたガラスの庇には、ブドウの実や葉のシルエットが浮かび上がっています。ブドウ棚を模しているのです。両者はあふれる生命力のイメージにおいて響き合います。

玄関ではまず頭上を見上げて装飾に注目を
玄関ではまず頭上を見上げて装飾に注目を

 それは内部に続きます。扉上の鉄製装飾の葉の中に、数羽の小鳥が潜んでいます。真ん中の小鳥だけ籠の中にいるようですが、続く広間の天井では解き放たれています。天井のステンドグラスには、自由に大空を舞う8羽の鳥が、見上げた構図で描かれています。手掛けたのは、日本にステンドグラスを定着させた名作家・小川三知(さんち)です。彼はあまり遠近法を強調しない作風なのですが、こちらは珍しくダイナミックな構図。スペインで多く建てられたバロック建築に用いられるトロンプルイユ(だまし絵)に敬意を表したのでしょうか。それでも余白を生かし、抽象化した描き方に、ステンドグラスの技術を習得する以前に日本画を学んだ彼の個性が存分に発揮されています。

生い茂るブドウの葉の中に愛らしい鳥の姿が見え隠れする
生い茂るブドウの葉の中に愛らしい鳥の姿が見え隠れする
日本初のステンドグラス作家として知られる小川三知の作品
日本初のステンドグラス作家として知られる小川三知の作品