特別な日に訪れたいレストラン、忙しい時間を忘れてゆったり過ごせる雰囲気のいいカフェ…愛されるお店には、料理はもちろん、空間にも訪れる人を引き付ける魅力があります。「建築を知ることは、人生を豊かにする」と語る建築史家の倉方俊輔さんが、食欲と知的好奇心を刺激するスポットを厳選。バラエティー豊かな建築の味わい方を紹介します。

3つのフロアにそれぞれ異なる開放感

 オフィス街の中にある、居心地の良いイタリアン・レストランです。

 1階がオープンキッチンのカウンター席になっています。通りに面した木の扉を気軽に開いて、アンティパストをオーダーしたり、淡路産や明石産といったローカルな食材を使った一皿を食したり。グラスで提供されるワインはもちろん、スプマンテやイタリアビールなども幅広くそろえています。

 入店するときっと、天井の高さに驚かされるでしょう。頭上に空間が伸びていて、幅よりも高さを強く感じさせます。そんなつくりが場になじんだ家具やポスターと一緒になって、心地よくて自由な雰囲気を醸し出しています。

居心地の良い空気が流れる1階のカウンター席
居心地の良い空気が流れる1階のカウンター席

 レストラン然としていないから、楽しいのです。建物の奥にある階段も家庭的なサイズ。少し急で、右足、左足と歩を進めれば、吹き抜けの景色が変化して見えてきます。中2階は、6名まで入れる個室になっています。仲間で集まると良いのは、何枚ものピザを選んで取り分けられること。1階に据えられた石窯で焼かれ、絶妙な加減でテーブルに運ばれてきます。

 3階がメインダイニングです。アラカルトの他に数種のコースメニューが準備されています。テーブルの間隔は十分に離されていて、内部が意外と広いことに気づきます。それに昼であれば、外の光がさんさんと降り注ぐことにも。通りに面して、大きな窓があります。周囲のビルからすれば、これは子どもみたいに小さな建物ですが、隣のビルよりも前に出る形で道にぴったり沿って建っているために、横にあいた窓からも街の風景がのぞめるのです。

 3つのフロアには、それぞれ異なる開放感があります。いったいどうしたら、こんな憩いの空間が、都市の真ん中で可能になるのでしょうか?

3階のメインダイニングは全26席。貸し切ってパーティーなどに利用することもできる
3階のメインダイニングは全26席。貸し切ってパーティーなどに利用することもできる
昼間は縦長の窓から自然光が差し込む
昼間は縦長の窓から自然光が差し込む
こちらがレストランの外観。オフィス街に立つ小さなレトロビルには、意外な過去が……
こちらがレストランの外観。オフィス街に立つ小さなレトロビルには、意外な過去が……