日本の伝統に西洋建築の長所を取り入れたユニークな構造

 「紹鴎の間」と庭園との境はガラス戸になっていて、開放的です。その外には鉄柱で支えられたテラスが張り出しているのですが、このように天井が折り上げ格天井になったものは珍しい。日本の伝統に西洋建築の長所を取り入れたつくりが今も、部屋の中と外を同時に使った集まりのような使い方の楽しみを与えています。

西洋風のテラスを、日本の伝統的な折り上げ格天井が彩る
西洋風のテラスを、日本の伝統的な折り上げ格天井が彩る

 その隣に、邸内で最も広い75畳敷の「羽衣の間」があります。客間として設けられました。庭園に張り出すようにつくられており、障子越しの穏やかな光が、部屋の両側から注ぎます。天井は高く、欄間はいっそう豪勢です。大広間に似合うように床の間も大柄。その天井も折り上げ格天井になっているといった、手の込んだ技も見られます。

 廊下はさらに、2階建ての建物へと続きます。それぞれに違った内装をもった、7畳から22畳の部屋があります。窓を開ければ、四季折々の緑が近く、ほっとする空間です。

客間として使われた75畳の「羽衣の間」
客間として使われた75畳の「羽衣の間」
折り上げ格天井は、床の間の天井にまで用いられている
折り上げ格天井は、床の間の天井にまで用いられている
欄間の彫刻も客間にふさわしい豪勢さ
欄間の彫刻も客間にふさわしい豪勢さ

秀吉にちなんで名付けられたかやぶきの茶室

 邸内には、茶室もあります。そこまでは折れ曲がった、天井の低い渡り廊下が続いていて、気分が新たになった頃に、8畳敷の「残月の間」が現れます。秀吉が残の月(明け方の空に残る月)を愛でたことから名付けられた、かやぶき屋根の離れです。奥の6畳敷の茶室「大炉」は、池に張り出して建てられています。窓を開け放てば、水の上に遊んでいる気分です。

 大阪市内を流れる大川の水を引き込んでつくられた緑豊かな築山式回遊庭園には、自然の奇石や由緒ある石塔、灯籠などが配されています。若い頃から美術の愛好家で、そのコレクションが藤田美術館に受け継がれた藤田男爵の邸宅らしさをうかがうことができます。

かやぶき屋根の離れにある茶室「残月の間」
かやぶき屋根の離れにある茶室「残月の間」
茶室「大炉」の眼前には四季折々の水辺の風景が広がる
茶室「大炉」の眼前には四季折々の水辺の風景が広がる