キャスターとして第一線を走り続ける長野智子さん。本連載では、日本や世界のニュースの当事者に、長野さんがマイクを向ける……のではなく、ぐいぐい斬り込み、筆を執ります。今回は、ラグビー協会に関するニュースに対して抱えたモヤモヤについて。当事者であり、日本ラグビー協会理事を退任したばかりの谷口真由美さんに聞きました。

ラグビー協会「女性理事40%以上」達成の裏で…

 「女性がたくさん入っている理事会の会議は時間がかかる」という東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗前会長の発言が猛批判を浴びたのは記憶に新しいが、森氏が例に出したとされる日本ラグビー協会が新しく7人の女性理事を任命したという。これでスポーツ庁などが作成したガバナンス・コードにある「女性理事40%以上」を達成。ラグビー協会は「多様性の確保という大義を果たした」と表明したわけだが、このニュースを聞いて私が驚いたのが、2022年1月に開幕する新リーグの審査委員長を務めていた谷口真由美理事が退任したことだ。

 その理由について、協会執行部は「来年1月に始まるラグビー新リーグの運営法人“JRTL”(一般社団法人ジャパンラグビートップリーグ)理事との兼任を避けるための再任見送り」と説明したが、なんと谷口さんは新リーグ運営法人の理事にも選ばれずにすべての要職を解かれてしまった。

 法学者の谷口さんがラグビー協会の理事に就任したのは2019年6月のことだ。父親が近鉄ラグビー部選手・コーチだったこともあり、花園ラグビー場内の寮で選手たちと育ったというバリバリのラグビー魂と知識を評価されて推薦を受けた。以来、メディア出演を控え、大好きなラグビーのために懸命に力を注いでいたはずなのに、なぜ急に退任することになったのか。今回、谷口さんが話してくれた事実上の「解任劇」は、私の受けた違和感の通り、どうにも納得のいかないものだった。

 「そもそも新リーグの理事との兼任を避けるためという説明からして、なんのこっちゃ? という感じでした。ラグビー協会と新リーグは共同事業もあると言ってきているし、むしろ、いわば親会社に席があって出向する方が、ガバナンスが効くと思っていたので、なんでこんなことになるんやろか? と」

2020年1月に行われた新リーグ設立会見での谷口さん。21年2月までラグビー新リーグ法人準備室長を務めていた(写真/アフロスポーツ)
2020年1月に行われた新リーグ設立会見での谷口さん。21年2月までラグビー新リーグ法人準備室長を務めていた(写真/アフロスポーツ)

 今回、ラグビー協会は新たな規定を設け、外部有識者を含んで構成する選考委員会を立ち上げて理事の選考過程をルール化したとしている。

 「選考委員会があるからには、人事にも事前に決められたルールが周知され、きちんとしたロジックが必要ですよね。理事会で質問しても、なぜ新リーグの理事候補は兼任できないのかという理由は明確には説明されず、選考は適正に行われましたというだけでした」

 しかも、さらに納得のできない事態が起きた。

 「新リーグ法人のトップにラグビー協会の森重隆会長が決まったんですが、あれ? と。最初はよく理解ができなかったのですが、これって思いきり兼任じゃないですか」

 たしかにロジックが破綻している驚きの展開なのだが、谷口さん自身は「これまでの流れのなかでこういうこともあるかなという想定内ではあった」という。一体どういうことなのか。