20年以上、キャスターとして第一線を走り続ける長野智子さんが、日本や世界のニュースの当事者、関係者に取材をして筆を執ります。初回のテーマは、「HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)」。なぜ、日本の接種率が飛び抜けて低いのか、新たな研究結果が発表されても大きく報道されないのか。キャスター時代にしっかりと伝えられなかったという”自戒の念”をこめて、長野さんが斬り込みます。

子宮頸がん発生率が88%減少したという研究結果

 「2020年にスウェーデンの研究期間が、『17 歳になる前にHPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチン接種を受けた女性の子宮頸(けい)がん発生率が88%減少した』という研究結果を発表しました。これは世界的にも本当に大きなニュースでした」

 こう話すのは関東中央病院の産婦人科専門医である稲葉可奈子さんだ。稲葉さんは臨床の傍ら、子宮頸がんを予防するためのHPVワクチンや、性教育などの啓発活動を積極的に行っている。

 「HPVワクチンの有効性のうち、『本当にがんを減らすかどうか』については10年以上経過を見ないと分からないのですが、ついにスウェーデンの国レベルの研究によってその有効性が立証されたわけです。でも、日本のメディアにはあまり大きくは取り上げられませんでした」

 確かに日本ではHPVワクチンについての報道が極端に少ない。実は今回、私が稲葉さんにお話を聞きたかったのも、メディア側にいてワクチン報道についての難しさを痛感してきたからである。HPVワクチンについての勉強会に参加する中で稲葉さんの講義を聴く機会があり、ぜひもっとお話を伺いたいと思った。

子宮頸がんの年代別罹患(りかん)率を見ると、20代後半から急増している。データ:国立がん研究センターがん対策情報センター「がん登録・統計」2015年
子宮頸がんの年代別罹患(りかん)率を見ると、20代後半から急増している。データ:国立がん研究センターがん対策情報センター「がん登録・統計」2015年

 日本でHPVワクチンの定期無料接種が始まったのは13年4月だ。対象は小学校6年生から高校1年生に相当する女性。初めての性交渉前に接種し、HPV感染症を防いで子宮頸がん発病を予防するものである。

 定期接種が始まった当初、接種率は70%程度あったが、その後、さまざまな症状の訴えがメディアで報道された。とりわけ運動機能障害やけいれん、意識障害などに苦しむ少女たちの映像に私も大きな衝撃を受けたのを覚えている。2カ月後には厚生労働省が予防接種対象者への「積極的な勧奨を差し控える」というスタンスを発表し、日本での接種率は大きく落ち込むことになった。

小学校6年から高校1年生に相当する女性を対象に、HPVワクチンの定期無料接種が始まったのは13年4月のことだった(写真はイメージ)
小学校6年から高校1年生に相当する女性を対象に、HPVワクチンの定期無料接種が始まったのは13年4月のことだった(写真はイメージ)