パレスチナの少女「私もあなたもイーブンなの」

長野 子どもが欲しいと心から願っているのに、仕事を休むという発想はありませんでした。今でこそ不妊治療に社会が理解を示すようになりましたけど、10~20年前は不妊治療をしていることで周りに気を遣わせたり、迷惑をかけたりしたくないという気持ちが強かった。あくまで個人の事情と考えていたことに加え、私の完璧主義的な性格が災いしたんでしょうね。過呼吸は、ストレスによる軽度のパニック障害が原因と診断されました。

 夫からは「もういいじゃないか。2人の人生を考えよう」と言われたのですが、子どもを産めるタイムリミットが近づくにつれ、女として子どもを産まないって人間としてどうなのって自分を追い詰めてしまって……。神経内科で処方された薬を飲むとパニック障害は収まるのですが、その間は不妊治療ができないんです。

 妊娠のタイムリミットが近づいていたころ、4度目のパレスチナ行きが決まりました。10年ほど前、初めて現地に行ったときに知り合った女性の家を訪ねたところ、4人のお母さんになっていました。幸せそうだねと言うと「あなたはどうなの?」と聞かれ「長く不妊治療をしているけど授かれない」と、彼女の前で大泣きしてしまったんです。すると彼女は静かにこう言いました。

 「私は育児で精いっぱいで、パレスチナの人々を救う活動ができない。でもあなたはこうやって来てくれて、パレスチナの現状を日本に伝えることで多くの子どもたちの命を救うことにもなるのよ。子育てする私も仕事をするあなたもイーブンなの」