キャスターとして第一線を走り続ける長野智子さんが今回話を聞いたのは、東京都特別顧問として東京2020の予算削減に携わった慶応義塾大学教授の上山信一さん。“昭和おじさん”と“IOCモンスター”が暗躍した東京2020の舞台裏、そして今まさに進行中の札幌五輪招致の是非について、長野さんが迫ります。

「東京の二の舞」になったら困る

 現在、2030北海道・札幌オリンピック・パラリンピック冬季競技大会の招致活動が進行中である。東京2020を巡る混乱の記憶がまだ新しい中で、また大丈夫なの? と思ってしまうが、年内には候補地として内定が出される可能性も報じられている。

 札幌オリパラ招致の動きを前にして、ぜひお話を伺いたい人がいた。東京都特別顧問として、かつて東京2020の予算削減に携わった上山信一慶応義塾大学教授である。上山さんは旧運輸省を経て大手コンサルティング会社・マッキンゼー日本支社に14年間勤務。その後、大阪の橋下改革など数多くの改革プロジェクトに携わってきた行政改革のプロだ。そんな上山さんは、実際に関わった東京2020をどう見ているのだろう。

 「予算の見直しはとても難易度が高かったですね。利害関係が錯綜(さくそう)していたし、施設の着工も迫っていて時間がなかった。これまで手掛けた改革プロジェクトの中で一番難しかったと言えるかもしれない」

 経験を踏まえて札幌招致にアドバイスはないですか、と聞くとすぐに返事が返ってきた。

 「オリンピックはモンスター。個人的には、招致しないという選択以外ないですよね。やめたほうがいい」

 そう言い切る上山さんが見た東京2020の現実は一体どんなものだったのだろう。

東京2020の開会式、閉会式の舞台となった国立競技場
東京2020の開会式、閉会式の舞台となった国立競技場

 上山さんが東京2020の予算の見直しに関わったのは、2016年、小池百合子都知事が誕生した際、知事本人から都政改革について協力してほしいと頼まれたのがきっかけだった。

 「もともと私の専門は行政改革で、オリパラの専門家ではない。しかし、当時の都政は、豊洲市場や都議会のことなどいろんな問題が炎上していて行革どころじゃなかったんです。中でもオリンピック施設の建設問題は都議会の闇ともつながっていると噂され、都政改革のセンターピンでした。そこで都政改革本部という官僚組織の別枠組織をつくって、知事直結の体制で取り組むことにしました」

 当時、小池都知事は築地市場移転問題、都議会とのバトルに加え、「1兆、2兆、3兆ってお豆腐屋さんじゃあるまいし」の発言が話題となったオリパラ予算膨張問題を抱えていた。2013年にIOC(国際オリンピック委員会)に提出した立候補ファイル(開催計画書)では7340億円だったオリパラ予算が、その2年後には3兆円規模になると舛添要一前都知事が発言して大炎上していたのだ。