キャスターとして第一線を走り続ける長野智子さんが今回話を聞いたのは、アートを通じてサステナブルな社会の実現を目指す長坂真護さん。長坂さんはガーナのスラム街に捨てられた世界中の電子機器の廃材を使ってアート作品を生み出し、その売り上げを現地に還元。地球環境や教育の改善に取り組んでいます。2021年のアート作品の年間総売上額はなんと8億円。いま最も注目のアーティスト、いや、アーティストという枠には収まりきらない長坂さんに、長野さんが迫ります。
資本主義に持続性を持たせるシステム構築したい
「僕、キャスター的な人たちの大好物みたいです」
開口一番そう言われてしまった。むむ、まんまと私もか。昔、先輩に「アナウンサーは歴史という舞台を最前列で見られる仕事」と言われたが、たしかに「キャスター的」な人間には「長坂真護」という存在は「今という舞台」にあって謎だらけで魅力的だ。
「ものすごいアーティストだから絶対に見ておいた方がいい」と知人に誘われたのが、2021年10月に日本橋三越で開催された「長坂真護展 "Still A Black Star / We Are Same Planet 〜私たちは繋がっている〜"」だった。そして、「わら」をモチーフにした巨大な作品の前で、「僕、本当のわらしべ長者になっちゃいました」と無邪気に笑う真護さんに出会った。前日、その作品は2億円で売れたのだという。
「正直、怖いですよ。三越の広大なフロアに僕の作品が何百点も飾られていて、何千万、何億円という価格で購入する方がいて。もしかしたら僕は今植物状態の人で、その僕が空想している仮想現実なんじゃないかって思ったこともあります」
個展は本当に不思議な空間だった。「世界の電子機器の墓場」と呼ばれるガーナのスラム街・アグボグブロシーから持ち帰った廃材を使った作品群。私たちの使った電子機器がスラム街で若者たちの健康を脅かしているという現実を突きつける強烈なメッセージを抱く油絵やコラージュでありながら、その空間に立った私が感じたのは、心が湧き上がるような興奮と居心地の良さだったのだ。
「うーん、僕は作品を見て問題意識を持ってほしいとか、アクションしてほしいとか、寄付してほしいとか一切思っていないんですよ。純粋にこれいいな、好きだなと思ってもらえればうれしいので」
一般的に現代アートは社会情勢や世相を映し出す鏡であることが多い。作品が持つ意味を探ったり、作家の真意を見いだそうとしたりすることで、私たちは世界が抱える問題点に感性を広げる。しかし、真護さんはそれを見る側に求めない。
「僕がやりたいのは資本主義に持続性を持たせるためのシステム構築なんです。簡単に言えば、僕みたいな日本人がスラム街の廃材をアートに使って成功するというソーシャル・インパクトによって、作品の値段がもっと上がる。その利益をスラム街に還元して発展させるシステム」