樹木希林さんとの関係性から生まれた名作秘話
福里さん 樹木希林さんには、富士フイルムのテレビCMに20年近く出ていただいていました。樹木さんが亡くなったとき、「富士フイルムのCMに、40年にわたって出演」という報じられ方をされましたが、実は違っていたんです。
「美しい人はより美しく、そうでない方はそれなりに」のフレーズで有名な1980年代のCM出演から、10年以上間が空きまして、2000年に久しぶりに復活されたんです。その復活の起用を提案したのが私でした。最後の出演作となった2018年お正月の作品まで、現場でご一緒していました。
樹木さんはそれほどスタッフの顔と名前を覚えてくださるほうではないのですが、3年目くらいから「スタジオの隅のほうにいる、冬彦さん(*)みたいな方は誰?」と私を認識してくださったようで。以来、「冬彦さんはどこ?」「ここですよ」というやりとりが続き、さらに5年ほどたって、ようやく福里という本名を覚えていただきました。
(編集部注:「冬彦さん」はTBS系列(1992年)のドラマ『ずっとあなたが好きだった』の主人公の夫)
連載「広告夫婦がゆく!!」でもインタビューさせてくださったり、2016年に東京コピーライターズクラブ(TCC)が発行する『コピー年鑑』の編集長を私がやったときには表紙を飾ってくださったりしました。「私の写真は自由に使ってちょうだい」とおっしゃったので、本当に自由に使わせていただきました。
三井さん そのような関係性があったので、宝島社の広告に樹木さんの「ラストメッセージ」を題材にしようという企画が進んだときには、夫にも少しだけ相談しました。
福里さん 着物姿の樹木さんが舌を出している写真にすると聞いて、すごくいいと思いましたね。亡くなられたからと言って、周りがしんみりするのは嫌がる方でしたから。
三井さん 制作秘話を明かすと、樹木さんのお顔に合成した舌の「主」もこだわりがあったんです。まったくの他人だと樹木さんも気持ちがよくないだろうなという、ADの方のご配慮で、(娘の)也哉子さんにお願いしたんです。
福里さん (也哉子さんの夫の)本木雅弘さんにスマホで撮ってもらったベロ写真を送ってもらったそうですよ。
―― 長年の関係性もあっての名作だったということですね。
夫婦の日常会話が元ネタとなった作品も
福里さん 同じ作品を手掛けることはなくても、共通の知り合いへのコミュニケーションの取り方とか、何となく情報共有して、お互いにやりやすくなっている部分はあるかもしれないですね。
三井さん あと単純に、日常会話がネタになっていることはよくあると思います。夫が手掛けたCMに、ENEOSのキャラクター「エネゴリくん」が「スーパーエネゴリくん」という人形になって100メートルを9秒台で走るシーンがあるんですけど、あれ、私の雑談が元ネタなんです。
福里さん そうだっけ?
三井さん 私が「昔のバラエティー番組で流行った『スーパーカール君』の懐かし動画を見て面白かった」って話をしたでしょう。ほら、夫はすぐ忘れちゃうんですけど、「あ! これ、私が言ったネタが元になってる!」ということ、しょっちゅうあるんですよ。
福里さん すっかり忘れていましたね。
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⇒夫婦は自立した他人同士だから「こうすべき」はない
ADKクリエイティブ・ワン コピーライター/クリエイティブ・ディレクター
ワンスカイ クリエイティブ ディレクター/CMプランナー/コピーライター
取材・文/宮本恵理子 写真/平瀬夏彦