互いの作品に意見はほとんど言わない

―― お二人が一緒に作品をつくるプロジェクトに呼ばれたことは?

福里さん 一度たりともないですね。もし、今後オファーが来たとしてもやりません。なぜなら、クリエイティブの現場には必ず「意見の対立」は生じるわけで、おそらく私たち夫婦が同じ現場に入ったとしても意見は対立するはずなんです。その対立が純粋な意見の不一致なのか、ただの夫婦喧嘩なのか、周りはよく分からないですよね。逆に意見が一致した場合も、広告をつくる人間同士で方向性が合っているのか、ただイチャついているだけなのか、これまたよく分からない。どっちにしても、周りは迷惑するんじゃないかなと思います。

三井さん もともとビジネスパートナー同士が結婚したのなら、その後も一緒に仕事はできるのでしょうけど、私たちの場合はそうじゃないですから。できるだけ直接関わらないようにしています。

―― 同じ業界でそれぞれに活躍される中で、影響し合った点はありますか?

福里さん 私はもともと人付き合いが苦手なほうで、いわゆるパーティーのような場には自分からは積極的に行かないタイプでした。一方、妻は逆のタイプで人との交流が割と好き。連れられて私も一緒に行くようになりまして、いろんな人とのつながりが多少なりともできたというのは、結婚後の変化かもしれないですね。

三井さん 本気で嫌だったわけじゃないんでしょ? でなければ、誘っても行かないはずだから。

福里さん 拒否するほどでも、という感じでした。知り合いが増えた結果、広告界が少し居心地が良くなった面はあると思います。

「夫婦で同じ作品を手掛けることはなくても、情報共有などで何となく仕事がしやすくなっている面はあるかもしれないですね」
「夫婦で同じ作品を手掛けることはなくても、情報共有などで何となく仕事がしやすくなっている面はあるかもしれないですね」

―― お互いの作品について、意見を言い合うことは?

三井さん ほとんどないよね。

福里さん 完成品を見せることもあるんですけど、妻からはものすごく厳しく言われるので(笑)。あからさまに「興味ない」という反応もされます。

三井さん えーっとですね、私はダイニングテーブルで仕事をすることが多いんですね。で、自分の作品にとりかかっている時は集中しているので、夫から話しかけられても「後にして」とスルーしてしまうことは確かにあります(笑)。内心は応援しているつもりなんだけどな。でも、「わぁ! すごい! 面白い!」みたいな反応をしたことはあまりないですね。

福里さん ちなみに、私は妻の仕事をそれはそれは褒めそやしていますよ。去年、妻が宝島社の広告で樹木希林さんを起用した作品(「サヨナラ、地球さん。」のコピーで話題になった新聞広告)を手掛けたときも、「すごくいいんじゃないか」と大変褒めた記憶があります。

三井さん あれは褒めてもらいましたね。というか、樹木希林さんはもともと夫が長年お世話になっていたご縁があって。