これまでさまざまな「家族のカタチ」を取材してきたエディター・宮本恵理子が、ARIA世代の夫婦を訪ね、新しいパートナーシップの在り方を探っていく連載「夫婦ふたり道」。今回は、ジャーナリストの佐々木俊尚さんとイラストレーターの松尾たいこさん。東京・軽井沢・福井の3拠点生活を送りながら、お互いに無理強いしない距離感を保ち、心地いい夫婦の関係を見つけている。佐々木さん、松尾さんにとって、夫婦とは?

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3拠点生活で「折れない」「よどまない」夫婦の関係


佐々木俊尚さん、松尾たいこさんにとって、「夫婦とは、健全な日常」
佐々木俊尚さん、松尾たいこさんにとって、「夫婦とは、健全な日常」

―― お二人のように歳を重ねてなお柔軟に自由に、世界を広げていき、お互いに応援できる夫婦になるには何が必要だと思いますか? 定年後の夫婦関係というのは、ARIA世代にとって、1つの課題です。

松尾さん 私たちの場合は二人ともフリーランスなので「定年」という概念はもともと持っていないし、気づいたらこの歳になっていたという感じです。「今ようやくここまでできるようになったから、さて、次は何しよう?」という発想の連続でやってきました。きっとその感覚は、彼も同じだと思う。

 ただ、「定年後に夫婦のバランスが崩れる」という話は、よく聞きます。だから、夫婦がそれぞれによりどころになる世界は、今のうちから広げておいたほうがいい。これは確信として言えることです。

夫婦の共通点は「業界人とつるまないこと」

佐々木さん 会社員生活のものさしに慣れすぎてしまうと、すべての人間関係を上下のヒエラルキーでしか見られなくなってしまうんですよね。夫婦関係も含めて、すべての人間関係をフラットに再構築していけることが、定年後の人生を豊かに楽しめるポイントですね。

 会社員だけじゃなく、実はフリーランスの業界にも近い現象は起こっているんですよ。ジャーナリズムの分野だと、フリージャーナリストの協会みたいなものがあって、偉そうにしている人がいる(笑)。僕はそこに属したいとは思わない。我々夫婦の共通点としては、「業界人とはつるまない」ということかな。

松尾さん 私もイラストレーターの友達はほぼいないです。一緒に仕事をした編集者さんやアートディレクターさんとかは仲良しだけれど、友達といえば近所で仲良くなった人たちとか、行きつけのパン屋さんとか、そんな感じ。

佐々木俊尚さん
ジャーナリスト
1961年兵庫県生まれ。早稲田大学政治経済学部中退。1988年に毎日新聞社入社。事件記者として12年キャリアを積んだ後、アスキーに転職。『月刊アスキー』編集部を経て、2003年に独立。『電子書籍の衝撃』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)で2010年度大川出版賞受賞。近著に『広く弱くつながって生きる』(幻冬舎)など著書多数。料理の腕前にも定評があり、書籍でも普段の食生活を彩る献立レシピを公開している。
松尾たいこさん
イラストレーター
1963年広島県生まれ。広島女学院大学短期大学部卒業後、マツダに入社。幼少期から好きだった絵を仕事にする夢を諦めきれず、1995年に上京。セツ・モードセミナーで腕を磨き、第16回「ザ・チョイス」鈴木成一賞受賞。カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』をはじめ多数の本の装画を手がける。2014年からは陶芸を始め、表現の幅を広げている。著書に『暮らしの「もやもや」整理術』(扶桑社)など多数。