3拠点を移動すると「リフレッシュしてよどまない」
―― 移動を伴う生活は、ご夫婦の生き方や価値観にとってプラスになっていますか?
松尾さん プラスになっていますね。私はほうっておいたら一日中家にこもって絵を描いている生活なので、物理的に場所を移動するきっかけがあるというだけでリフレッシュになります。
佐々木さん 定期的にリフレッシュされるからよどまない。
松尾さん 引っ越しのタイミングで断捨離できるのと同じように、持ち物を整理したり、吟味したりするきっかけも多いのもいいよね。
佐々木さん 移動前には、冷蔵庫の食材をできるだけ処理するからね。
松尾さん まさかリュックの中身が、食べきれなかった白菜やお米だとは誰も気づかないだろうなって、何食わぬ顔で電車に乗ってる(笑)。
―― 多拠点生活だと生活コストがかさむのでは、という懸念も実はそうではなかったとか。
佐々木さん 最初だけですね。福井の場合は本当に過疎地に家を借りているので安いです。移動の費用はかかるけれど、それも片道1~2万円程度なので、これまでレジャーにかけてきた費用に比べると大したことない。
―― 移動のスケジュールはどうやって擦り合わせるんですか?
松尾さん 仕事の予定が入り始める前に、2カ月くらい先の移動の予定をざっくり決めることが多いですね。細かい調整は、Facebookのメッセンジャーで都度やりとりします。
松尾さん だからと言って全くおしゃべりしないわけではなくて、朝夕の食事の時間は一緒。特に朝はほぼ毎日一緒に食べているので、夫婦としてはよくしゃべっているほうかなと思います。
仕事の話はめったにしないけれど、たまに方向性に悩んだ時はアドバイスを求めることもあります。例えば昨日も私がイラストのラフを2パターン描いたものの、どっちがいいか決められなくて、「どっちがいいと思う?」と意見を聞きました。ただ、大きな決断については、自分で決めた後に事後報告の形です。陶芸を本格的に始めようと思った時も「福井で始めようと思うんだ」って、決断してから伝えました。
―― それに対して佐々木さんはなんと?
佐々木さん やりたいならやればいいじゃない、と。
松尾さん 最近も新しい技法を習い始めたんですけれど、それも事後報告。
―― これまで「それはやめたほうがいいんじゃない?」と、相手の決定を引き留めるようなことはありましたか?
松尾さん うーん、あ、今朝、1つあった! 私が「眉毛アートっていいんだって。入れ墨だから、すっぴんでも眉毛を描く必要がなくなるらしいよ。やってみようかな?」と言ったら、「眉毛の流行が変わったら困らない?」と返されて「確かにそうだね」って。だいたい相談するのは、否定されてもいいような小さなことばかりです。
―― 佐々木さんが会社を辞める決断を話した時も、事後報告だったのでしょうか?
松尾さん その時はさすがにすごく悩んでいて、相談を受けました。彼が私に「どう思う?」と聞くから、「絶対大丈夫に決まってるじゃん!」と答えました。私は彼の才能に関しては100%信じているから。そのシーンだけは、私が唯一彼の背中を押したと言えます。
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取材・文/宮本恵理子 写真/平瀬夏彦