お互いのすべてを「知らないほうが長続きする」

―― お二人は、それぞれの仕事やプライベートでの出会いを夫婦で共有することはありますか。

松尾さん 私は、彼のことを全部知る必要もないと思っていて、一緒にいる時間が心地よければいい。基本的に彼も私もお互いを信頼している間柄でいられているので、それで十分だなと思っています。

佐々木さん 相手の交友関係についても、基本的には聞かないし、しゃべりたい時にしゃべる程度です。

―― なぜそうするのがいいのでしょう?

佐々木さん 交友関係を話し出すと全部説明しないといけなくなるじゃないですか。お互いのことをすべて知り尽くそうとする態度は、抑圧につながるから長続きしないと思っています。だから、「今日誰と会ったか」はまず話さない。「近くにこういうお店ができたらしいよ」と仕入れた情報は話すことはあっても、誰から聞いた話かはよほど情報とひもづかない限りは言わない。

松尾さん 東京滞在中はそれぞれの付き合いで別々に外食することも多いんですが、誰とご飯に行ったかはお互いに言わないですね。ただ、「今日は出かけるね」と伝えておくくらい。

佐々木さん それは僕が食事を用意するかどうかに関わるからという、現実的な理由です。

松尾さん そのほうがいいよね。お互いの日常を全部知ったら、飽きちゃいそうだし。

佐々木さん アメリカのある調査研究によると、「共通の友人が少ないほうが、夫婦や恋人は長続きする」らしいです。それでもなぜか「夫婦はできるだけ共通点が多く、共通の知り合いも多いほうが仲が良い」というイメージは根強くありますよね。

―― たしかに、「夫婦で共通の知り合いを作ったほうがいいのかな」と考える人は多いかもしれません。

佐々木さん そのプレッシャーの元はきっと、アメリカのホームパーティー風景にみられる、古き良き夫婦のイメージから来ているんだと思います。社交の場には必ず同伴で、旅行も夫婦一緒、親しくなった友人には妻を紹介しないといけないとか。でも、それは全部幻想でしかありませんよ。そもそも「夫婦が大恋愛して子どもを産んでハッピーエンド」というシナリオも18世紀ヨーロッパの恋愛至上主義の影響を引きずっているだけ。

 これからの長寿社会に大事なのは「無理なく持続すること」。となると、夫婦の関係は「会っている時は楽しく過ごす。会っていない時は、それぞれのプライベートを大切に過ごす」という緩やかなつながりを保つほうが絶対にいいはずなんです。と力説しても、いつもメディア受けしないので、見出しは「やっぱり愛が一番です」とかになっちゃう(笑)。

―― しませんので安心してください(笑)。

夫婦は「なんでも一緒」である必要はない

佐々木さん なんのために結婚しているのか、という問いについてもっと考えないといけないと思いますね。僕にとってその答えは「健全な生活を楽しく営むため」であり、「四六時中、一緒にいるため」に夫婦になったわけではないので。だから、お互いに無理に合わせることはしないし、求めない。

 無理強いしないのと同時に、それぞれの生活を尊重して適度な距離感を保つ。「なんでも一緒」と縛りつけると、必ず抑圧になるので。よく「夫婦一緒の行動が多いんですね」と誤解されるんですけれど、「違います」と言い続けているんですよ。夫婦が常に行動を合わせないといけないという抑圧がメディアで増幅されるのは、よろしくないと思っています。

松尾さん 私たち、本当に何も考えていないんですよ。「こうなりたい」という夫婦像も別に持っていないし、たまたま夫婦になっただけで、基本は他人同士の共同生活。籍を入れるかどうかもどうでもよかったくらいで。

佐々木さん スポーツジムの会費が家族割りにするほうが安かったから、という動機でした。入会金が高かったから節約のために入籍しました。