多くの人がいつかは向き合う介護。一人ひとり状況も悩みごとも違っても、話をしたり聞いたりすることで心が軽くなることも。読者の実際の体験や思いを聞き、専門家にコメントをもらいます。足腰が弱って入院したことをきっかけに認知症と診断された父。2人暮らしでやっていけると言う母を尊重し、見守ると決めた康子さん。両親との絶妙な距離感を保っています。

康子さん(仮名) 51歳 会社員
東京で1人暮らし。85歳の父と81歳の母は神奈川県の実家で2人暮らし。兄がいたが既に他界。父が1年前に認知症と診断され要介護3に。認知症の症状は軽いが足腰が弱っているのでリハビリに通う。母は元気だが難聴がある状態。月2~3回康子さんが実家に帰って様子を見ている

介護のはじまり

足腰が弱り入院した父に認知症の診断

病院から施設を勧められたが…

 父は定年退職後に地域のシルバー人材センターで働いていましたが、それを辞めると、もともとうつ傾向があったせいか外に出なくなりました。足腰の筋肉が弱り、2021年7月に自宅で転倒したときに自力で起き上がれなくなったようです。

 同居する母が小柄なので父を起こせず、救急搬送されることに。コロナ禍で入院先を決めるのも大変。母は難聴がありコミュニケーションが難しく、手続きを助けるために私も駆けつけました。私は在宅勤務も可能な仕事で、PCを実家に持ち込んで仕事をしながらサポートできたのがありがたかったです。

 父は重篤な病気があるわけではないですが、足腰が弱っているのと認知症の疑いもあるので、実家近くのリハビリ科のある病院に転院しました。

 入院して早い段階で「お父さんは認知症ですので、退院後は施設に」と言われました。確かに物忘れがあると母から聞いていましたが、施設に入らなければならないような状態だとは認識していなかったので、一旦考えることに。その間に介護保険の申請をして、要介護3の認定を受けました。

 母とも相談して、医師が言うなら施設に入れたほうがいいのかと見学に行ったのですが、母は他の入所者の様子を見て、父の状態との違いに戸惑い、施設に入れることを考え直し始めました。

 他県でケアマネジャー(ケアマネ)をしている友人に相談したところ、「施設ではなく介護老人保健施設(老健)という選択肢もあるよ。リハビリをして自立した生活を目指すための施設で、回復したら自宅に戻れる。そうしたらデイケアやデイサービスを利用しながら自宅で生活できるよ」と教えてくれました。

 すぐ病院に老健に移りたいと相談するとびっくりされました。というのも、この病院ではこれまで、夫が介護が必要になると、介護に携わるのを避けようとする妻が多かった。だから施設を勧めたのだ、と分かりました。

 私たちは父のケースしか知らず、より多くの情報を持っている病院が勧めるのだから施設に行くしかない状況なのだと思い込んでいました。もし友人がアドバイスしてくれなかったら、施設に入れていたと思います。

友人が老健のことを教えてくれたおかげで、自分たちで能動的に介護サービスを選んでもいいんだと気づきました(写真はイメージ)
友人が老健のことを教えてくれたおかげで、自分たちで能動的に介護サービスを選んでもいいんだと気づきました(写真はイメージ)
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