認知症になった母と高齢の父を実家に残し、東京で映像作家として働く一人娘。帰省するたびに撮り続けた両親の日常と、自身の心の葛藤を描いたドキュメンタリー映画『ぼけますから、よろしくお願いします。』は、全国で上映会が催されました。監督の信友直子さんは、講演会で全国を飛び回る合間を縫って母を見舞う日々でしたが、新型コロナ禍で講演会はすべて延期に。実家のある広島・呉に戻り、母と父のそばで過ごす日々を3カ月以上送り、ついに別れの日を迎えます――。

3月、コロナで上映会や講演会はすべて延期に

―― 2019年3月に信友直子監督をインタビューさせていただき、5月に日経ARIAで記事にしました( 『老いゆく両親を泣きながら撮った3年 信友直子監督』)。記事への反響が大変大きくて、7月には読者向けに自主上映会も企画しました。こうした上映会は全国で催されたそうですね。

信友直子さん(以下、敬称略) もう、数えきれないくらいですね。毎日1~3カ所で開催されていて、私の講演とセットになった上映会も1カ月に12~13回というペース。全国各地からお話をいただくので、東日本を訪れる時期と西日本を訪れる時期とに分けて、西日本へ行くときには広島・呉の実家をベースにしていました。

ドキュメンタリー映画『ぼけますから、よろしくお願いします。』の監督、信友直子さん
ドキュメンタリー映画『ぼけますから、よろしくお願いします。』の監督、信友直子さん

信友 2020年2月には、英国で巡回上映会を行いました。下旬に帰国したら急に、新型コロナウイルスが大きなニュースになって驚きましたね。3月1日から再び講演のために全国を飛び回る予定だったのですが、すべて延期になり、スケジュールが空白になりました。

 本業であるドキュメンタリーの制作の仕事もできる状況ではなかったので、1週間くらいのつもりで実家に戻りました。そのまま3カ月半も居続けることになるとは、その頃は思いもしませんでした。

 実家では、99歳になる父がひとり暮らしをしていて、認知症の母はその後脳梗塞を発症したので、家から徒歩20分の距離にある病院に入院しています。二人で一緒に母を見舞ったり、父に料理を作って一緒に食べたり。この機会に、と古いアルバムを整理したら、写真を見た父が戦争で亡くなった友人を惜しむ話を、何度も何度も繰り返し語ってくれたりしました。父と母の若かった頃の話も聞きましたね。

99歳の父、良則さん。信友さんが作った食事を食べながら一杯
99歳の父、良則さん。信友さんが作った食事を食べながら一杯

信友 私は一人っ子で、子どもの頃から母と大の仲良し。女同士で話が盛り上がることが多かったので、父と二人だけでこんなに長い時間を過ごしたり、戦争の頃の話を聞いたりするのは、初めてのことでした。