ドラマ黄金期に青春時代を過ごしてきた「テレビっ子」なARIAさんたちに、ドラマやテレビの最新情報をお届けします。今回は、ドラマコラムライター田幸和歌子さんが、数多くのドラマに名バイプレーヤーとして登場する市川実日子さんの稀有(けう)な“存在感”に注目します。

そこにいなくても浮かび上がる存在感

 松たか子主演×坂元裕二脚本の『大豆田とわ子と三人の元夫』の第一部ラストとなる第6話で、誰も予想しなかった衝撃の展開が描かれた。

 それは、とわ子(松たか子)の30年来の親友・綿来かごめ(市川実日子)の突然の死である。この回では、とわ子が仕事相手との交渉が決裂した後、行方が分からなくなっている一方で、三人の元夫たちがとわ子の父・旺介(岩松了)に呼び出され、とわ子不在のとわ子の家で、それぞれ新しい恋に発展しそうな女性たちと共にギョーザパーティーをする流れになる。

 女性たちはそれぞれ男性陣をボロクソにけなしまくり、男性陣は傍らで小さくなるのだが、その間、彼女らの恋バナが正直、全然私の頭に入ってこなかった。それは交渉相手の車に乗ったまま行方が分からなくなったとわ子が、気になって仕方なかったからだ。

 と同時に、誘ってもらったからとはいえ、面識がない他人の家に家主不在であがりこみ、酒を飲んで好き勝手しゃべり、ソファの上に足を平気でのせたり自分の家のようにくつろいだりする女性たちの姿に、ちょっといら立ちを感じつつも、つい考えてしまったのは「とわ子はこういうこと、しないよな」「かごめも絶対しないよな」ということ。男女6人(+寝に行った父)がそこにいるのに、多くの視聴者の頭の中にはおそらくそこにいないとわ子と、かごめが浮かんでいたはずだ

 かしましい女性たちとそれに振り回される男性たちの6人がそろっていても、真ん中の空洞部分が浮かび上がってくるのは、坂元裕二の脚本のすごみだろう。

『大豆田とわ子と三人の元夫』で、主人公とわ子の親友・かごめ役の市川実日子(写真右)
『大豆田とわ子と三人の元夫』で、主人公とわ子の親友・かごめ役の市川実日子(写真右)