坂元裕二の巧みな「曖昧な感覚の言語化」が見どころ

 物語は、とわ子の亡き母のメールが開けないことから、パスワードを変えようとすると「秘密の質問:はじめて飼ったペットの名前は?」と表示される場面で始まる。3人の元夫の誰かが設定していたと考えられ、全員に聞くしかないという事態になるのだが、これを機に互いに接点を持ち始めた夫たちが、ひょんなことから集結し、とわ子本人不在で話し合いを始めるという、なかなか悲惨な光景が展開される。

 縁を切ったはずの人間と、思いがけないかたちでつながりが復活してしまうことはあるもので、それがパスワード設定というのは笑えるし、怖くもある。坂元裕二脚本はこうした日常の小さなリアリティーや、快・不快の説明しがたい曖昧な感覚の言語化が、非常に鋭敏で巧みである。だから、「靴の中に小さい石が入ってしまって、靴を脱がずに取り出そうとしている」「網戸が外れるのが何より嫌い」というとわ子の小さなこだわりにも、共感だらけだ。

互いに接点を持ち始めた元夫たちが、ひょんなことから集結し、本人不在で話し合いを始める
互いに接点を持ち始めた元夫たちが、ひょんなことから集結し、本人不在で話し合いを始める

 ちなみに、とわ子が着用しているワンピースや背負っているリュックはデザイナーの黒河内真衣子がデザインを手掛けるコレクションブランド「Mame Kurogouchi」だと同番組のファンの間で特定されているが、主役の役名「大豆田」にちなんで「MAME」が名前の一部に入ったブランドをさりげなく起用するといった遊び心も心憎い。とわ子と3人の元夫が横並びでブランコをしながら、舞い落ちる桜の花びらを口でとらえようとするシーンなど、一枚画として切り取りたいような映像美もたくさんある。音楽のセンスも良い。

 予算やコンプラの関係から、ドラマが地味にこぢんまりになりがちな時代に、こんなにも豪華で、にもかかわらずバブリーではなく、上品で現代的にアップデートされたシャレたドラマが見られるなんて、うれしい限りだ。

 ちなみに、とわ子の母が、自身が離婚した理由について「私は1人で大丈夫だと思われるのよ」と語ったのに対し、「私は1人で大丈夫だけど、大事にもされたい」と答えた少女時代のとわ子。それはぜいたくな望みなのか。バツ3になり、自立しているとはいえ、3人から大事にされ続けている現状は、実はどちらも手に入れているということに気づいていない点が、とわ子の最大の苦しみにも見える。

 この作品のほかにも、ARIA世代にとって、心情がリアルに響く作品が今期は充実している。金曜深夜に連続して見られるテレビ東京のドラマによるリレーが、その代表例だ。