「働く」って何ですか――働き方改革やワーク・ライフ・バランスといった旗印の下で「働く」が揺らぐ今、改めてこの根源的な問いの答えを考えてみませんか? ifs未来研究所所長の川島蓉子さんが、企業のトップに「あなたにとって働くって何ですか?」をぶつけます。今回は特別編。(上)では、キャンプ用品のハイエンド市場を切り開いたアウトドア総合メーカー「スノーピーク」の会長・山井太さん、(下)では2020年3月に32歳で社長に就任した山井梨沙さんの親子リレーでお話をお聞きします。

(上)スノーピーク会長 20代で描いた60歳までの人生計画 ←今回はココ
(下)スノーピーク山井梨沙 父はサメ型、私はイルカ型の社長

社員に伝えた「コロナ後は、黄金時代になる」

川島蓉子さん(以下、敬称略) 新潟出身で同郷ということもあり、山井さんとは長いご縁ですが、最初にお会いした印象として強く残っているのは、「いずれスノーピークをエルメスのようなブランドにしたい」と自信満々でおっしゃったこと。正直言って大胆過ぎると思ったんです(笑)。でも、2014年の株式公開後の6年間(2019年まで)で売上高を約3倍に伸ばすなど、その道を着実に歩まれている。「この人は有言実行のきっぱりさを持っている」と反省しきりです。そんな山井さんが、コロナ禍で変えたこと、変わったことは何でしょう?

スノーピーク代表取締役会長・山井太(やまい・とおる)さん
スノーピーク代表取締役会長・山井太(やまい・とおる)さん
1959年、新潟県生まれ。明治大学を卒業後、外資系商社勤務を経て86年に父が創業したヤマコウに入社。アウトドア用品の開発に着手し、オートキャンプのブランドを築く。96年の社長就任と同時に社名をスノーピークに変更。熱狂的なアウトドア愛好家としても知られている。2020年3月に会長に就任

山井太さん(以下、敬称略) まずは、トップとしてやらなければならない大きな経営判断がありました。政府が4月7日に緊急事態宣言を出した直後に、社内に向けて非常事態宣言を出すとともに、非常事態対策本部を設けて本部長になって陣頭指揮を執りました。

川島 ちょうど社長交代をなさって、お嬢さんの梨沙さんが社長になったばかり。山井さんは会長になられたのでは。

山井 3月27日の株主総会で社長を交代したので、その直後のことでした。コロナ禍という予期せぬ緊急事態だったので、社長とも話し合い、一時的に僕が陣頭指揮を執るという体制を構築しました。新社長にとっては、めったにないこの事態を通して経営の根幹を左右する状況を目の当たりにし、実体験として学べたのは良かったと思っています。

川島 なるほど。それで山井さんは、非常事態対策本部長として、どんな采配を振るったのですか?

山井 最初に、役員と執行役員に集まってもらい、「僕の給料は50%、社長・副社長は30%、執行役員は20%カット。そして全社員の雇用を守る」という方針を提案し、合意を得たのです。即、社員に伝えたのですが、「コロナ後は、スノーピークにとっての黄金時代になる」というメッセージを添えました。まずは何としても会社を存続させ、社員を守ることが最優先事項としてありました。一方で、店舗もキャンプ場も閉めなければならないし、部分的に事業を止める可能性もある。結果的に事業を止めるところまではいかずに済んだのですが、厳しい局面でトップとして何をすべきか、どう動くかを熟考して出した方針でもありました。

川島 何かカッコ良過ぎる感じもしちゃいます(笑)。そして良い意味でワンマンでもあり!