「働く」って何ですか――働き方改革やワーク・ライフ・バランスといった旗印の下で「働く」が揺らぐ今、改めてこの根源的な問いの答えを考えてみませんか? ifs未来研究所所長の川島蓉子さんが、企業のトップに「あなたにとって働くって何ですか?」をぶつけます。今回は、アウトドアブランド「ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)」の成長をけん引し、2020年4月にゴールドウイン社長に就任した渡辺貴生さんに聞きました。

(上)ザ・ノース・フェイス成長の立役者が川久保玲に得た刺激
(下)ゴールドウイン社長 1歩先のマーケットをデザインする ←今回はココ

経営の感覚は、デザインする感覚に近い

川島蓉子さん(以下、敬称略) 前回、仕事人生の中で最も影響を受けたのは、コム デ ギャルソン(COMME des GARCONS)の川久保玲さんというお話をうかがいましたが、コム デ ギャルソンとはどんなお仕事をご一緒されたのですか。

渡辺貴生さん(以下、敬称略) 「ジュンヤ ワタナベ・コム デ ギャルソン」のデザイナーである渡辺淳弥さんから、パリコレでゴアテックスを使ったアウトドアウエアを作りたいと相談されたのがきっかけで、「ザ・ノース・フェイス」とコラボレーションしたのです。その後、「大人に向けたストリートウエア」をコンセプトにした「アイ コム デ ギャルソン・ジュンヤ ワタナベ マン」で、コラボした服を売る試みも行いました。以来、いろいろとご一緒していて、この夏も「プレイ・コム デ ギャルソン」と「ザ・ノース・フェイス」のコラボ限定モデルを作っています。どれもが刺激的で面白い体験です。

川島 他社の方とコラボレーションする意味はどんなところにあるのでしょうか。

渡辺 まずは、「ザ・ノース・フェイス」がテクノロジーをどうとらえているかが、従来の枠組みではなく異なる角度で伝わっていくこと。自分たちが持っている経験やノウハウが、違う人たちに広がっていく効果が大きいと思います。社外の方のアイデアを自分の中に取り入れることで、クリエーティブな発想が生まれてくる。社員が自分の可能性を見いだし、成長していくことも大きいですね。そもそも経営というものは、デザイナーとかアーティストとか、そういう人の感覚に近いと僕は思っているのです。

ゴールドウイン代表取締役社長・渡辺貴生さん
ゴールドウイン代表取締役社長・渡辺貴生さん
1960年、千葉県生まれ。大学卒業後、82年にゴールドウイン入社。商品や店舗開発など、30年以上にわたってザ・ノース・フェイスの事業に携わり、同ブランドの成長に貢献。2020年4月から現職。ゴールドウインの20年3月期の連結決算は、売上高が前の期比15%増の978億円、3期連続で過去最高を更新した。特に今期も2桁増を達成した「ザ・ノース・フェイス」が好調だった

川島 えっ、どういうことですか?

渡辺 僕がゴールドウインに入った頃、会社の中で一番小さい事業部だった「ザ・ノース・フェイス」が、今は基幹事業になっている。その意味では、マーケットをいかにデザインしていくかは、経営が果たす役割の一つととらえています。それも、お客さんの要求に合わせていくのでなく、お客さんの要求を見抜いて一歩先を提案していく。世の中に新しい視点を提案していく覚悟を携え、経営していかなくてはならないのです。

川島 そうやっていけば、結果的に数字もついてくるということですね。

渡辺 そうかもしれないですが、僕は数字を追いかけることはしないと決めています。社会の役に立っていて、皆さんに面白いと思われる会社であれば、おのずとその会社は必要とされていくと考えているのです。