「働く」って何ですか――働き方改革やワーク・ライフ・バランスといった旗印の下で「働く」が揺らぐ今、改めてこの根源的な問いの答えを考えてみませんか? ifs未来研究所所長の川島蓉子さんが、企業のトップに「あなたにとって働くって何ですか?」をぶつけます。今回は、ジンズCEO田中仁さんの後編。コロナ禍で何を考え、どう動いたかを聞きました。

(上)ファストリ柳井氏の問い 覚悟を決めたジンズ田中CEO
(下)ジンズ田中CEO「商売は9割失敗する、でも挑戦する」 ←今回はココ

利益が出ても、幹部の減給を決めた理由は…

川島蓉子さん(以下、敬称略) 新型コロナウイルス禍で、田中さんご自身が変わったことはありますか?

田中仁さん(以下、敬称略) 不思議とファイトが湧いてきて、朝4時から夜中の1時くらいまで、せっせと働いています(笑)。火事場の馬鹿力ではないですが、こういう時にエネルギーが出てくるのです。

川島 改革や判断をバシバシやっているのですね。

田中 業績が低迷してもおかしくない状況でしたが、社員達も頑張ってくれて、緊急事態宣言解除後は業績が戻りつつあります。こういう状況で成果を出せたのはうれしいことです。一方、私をはじめ役員や幹部は、向こう半年間、減給にしたのです。私は30%、ほかの役員は20%、マネジャーは5~10%、たとえ業績が良くなっても、給与は戻さないと決めています。

ジンズホールディングス代表取締役CEO・田中仁(ひとし)さん
ジンズホールディングス代表取締役CEO・田中仁(ひとし)さん
1963年、群馬県生まれ。慶應義塾大学大学院修士課程修了。88年ジェイアイエヌ(現ジンズホールディングス)を設立。2001年アイウエア事業「JINS」を開始。高品質で低価格を武器に成長し、06年に大証ヘラクレス(現JASDAQ)、13年東京証券取引所第⼀部に上場した。「年々、仕事と遊びの境界線がなくなっています。上場企業のCEO社長であっても、自分らしく好きなことをやっていい、と思えるようになりました」

信用金庫で学んだ「商売は厳しい」

川島 新型コロナウイルスの影響ですか?

田中 それは違います。2019年から既に上がっていた課題であるデジタルトランスフォーメーション(DX)について、本格的な実行に移していなかった責任を取るためです。早く着手すべきだという重要性を分かっていたのに、後回しにしていた。危機感が薄かったのです。

川島 厳しいお話ではありますが、下の人から見ると、上の人がきちんと責任を取るというのは説得力がある話です。

田中 そのDXについては、いざ真剣に取り組んでみたら、コロナ禍の前から準備はしていたので、予想以上にスムーズに進んでいます。

川島 そういう厳しさはどこで培われたのでしょう。確か田中さんは、最初に就職したのが、前橋信用金庫(現しののめ信用金庫)でいらっしゃったかと。どうして信用金庫を選んだのですか。

田中 中学生のときに両親が商売を始めたり、母親の実家も商売をしていたりして、商売は身近な存在でした。けれど、絶対にこれをやりたいというほど明快なものがあったわけではなく、自分は商売でしか身を立てることができない、だからやろうと思っただけのこと。お金を貸すことを生業にしている信用金庫なら、商売のことを学べるだろうと、出身地である群馬県で一番大きい信用金庫に就職しました。

川島 入ってみてどうでしたか?

田中 最も大きな学びは「商売は厳しい」と知ることができたことです。私が直接担当した取引先ではないのですが、資金繰りで行き詰まった社長が夜逃げをした、あるいは自殺をしてしまったというケースがありました。ベンチャーキャピタルなどがまだない時代ですから、資金を得た事業がうまく行かず、保証人に(借金を)請け負ってもらうのは申し訳ないと、自責の念で追い詰められてしまう人を目の当たりにしたのです。ついこの間まで、元気な様子を窓口から見ていたのに……と、深く考えさせられました。