「人間の器」以上の商売はできないと気づいた

田中 どこまでが仕事でどこまでが遊びかという線引きは、もうありません。(上「ファストリ柳井氏の問い 覚悟を決めたジンズ田中CEO」)で話しましたが、ファーストリテイリング柳井正社長とお会いして「振り切ろう」と決めてから、どんどん仕事と遊びの境界線がなくなってきました。上場企業のCEOであっても、自分らしく生きていい、好きなことをやっていいと思ったのです。

川島 「自分らしく」と「仕事」とは、なかなか結びつかないものですが。

田中 自分で商売をやってきたから気づけたのですが、その人の人間としての器以上の商売はできないのです。商売を伸ばしたいと思ったら、商売そのものを伸ばすことに注力するよりも、まずは自分自身の考えや価値観といったものの幅が広げていかないと。そうしなければ、商売は大きくなっていかないと感じています。だから自分らしさは大事なのです。

川島 その意味で今、田中さんがはまっていることを教えてください。

田中 アートには興味がありますね。アートは個人の持っているクリエーティビティーによって、価値を純粋に引き上げることができるからです。

川島 それを今後の商売に結びつけようと?

田中 商売としてのクリエーティビティーに興味があります。クリエーティビティーで価値を上げる方法はないか。最近ずっと考えていることです。

川島 そうやって、いつも「おもしろい妄想」みたいなものを広げているのでしょうね。今回も、穏やかな語り口ながら、激しさや厳しさ、そして温かさを秘めている田中さんのお話に引き込まれました。ありがとうございました。

取材・文/川島蓉子 写真/洞澤佐智子