「働く」って何ですか――働き方改革やワーク・ライフ・バランスといった旗印の下で「働く」が揺らぐ今、改めてこの根源的な問いの答えを考えてみませんか? ifs未来研究所所長の川島蓉子さんが、企業のトップに「あなたにとって働くって何ですか?」をぶつけます。今回は、ポーラ・オルビスホールディングス代表取締役社長、ポーラ取締役会長を務める鈴木郷史さんの後編です。

(上)10歳で人生に悩む『善の研究』が救済
(下)信頼できるのは不満を基に行動できる人 ←今回はココ

「また会いたい」と思う人に共通するのは?

川島蓉子さん(以下、敬称略) 鈴木さんは感性的なものへの造詣が深く、経営視点にも取り入れていらっしゃいます。最近でこそマネジメントにおける「美意識」に脚光が当たっていますが、ポーラは早かった。社員のコンピテンシー(ポーラ・オルビスグループ社員共通の行動様式)の中にも「美意識」が入っていますが、そのきっかけは何だったのでしょうか?

鈴木郷史さん(以下、敬称略) 世の中には、成果が出る人と出ない人がいる。いったい何が分岐点なのだろうと考えていくと、「またあの人と会いたい、話したい」と思わせる、いわば「人としての魅力」が作用しているかどうかだと思ったのです。そして「人としての魅力」の中には「美意識」がある。これを社員の評価軸に取り入れたいと考えました。

 ところが世の中にはっきりと存在していない軸なので、評価軸とするのがなかなか難しかった。そんなときに「世界の優れたリーダーに備わるコンピテンシーのデータを持っている」というコンサルティング会社と出合って、やってみることにしたのです。まずは僕自身が評価を受けて、結果を社内のイントラネットで全部公開しました。

ポーラ・オルビスホールディングス代表取締役社長・鈴木郷史さん。早稲田大学大学院理工学研究科修了後、1979年に本田技術研究所へ入社。1986年ポーラ化粧品本舗(現ポーラ)入社。2006年から現職、2016年からポーラ会長に。訪問販売中心だったポーラの事業を転換し、サロン型ショップ「ポーラ ザ ビューティー」を展開するなど大きな改革を行った
ポーラ・オルビスホールディングス代表取締役社長・鈴木郷史さん。早稲田大学大学院理工学研究科修了後、1979年に本田技術研究所へ入社。1986年ポーラ化粧品本舗(現ポーラ)入社。2006年から現職、2016年からポーラ会長に。訪問販売中心だったポーラの事業を転換し、サロン型ショップ「ポーラ ザ ビューティー」を展開するなど大きな改革を行った

川島 どんな結果だったのでしょう?

鈴木 簡単に言えば、徹底したトップダウン型の経営であり、私には人材育成と権限委譲が足りないと。でも意識的にそうしていたところがあったのです。

川島 本当ですか?

鈴木 ポーラ化粧品本舗(現ポーラ)社長に就任したばかりの2000年ごろのことですから、訪問販売を主軸にしていた従来のポーラの事業を見直し、全国にある販売子会社を閉鎖してフラットな組織に転換している渦中のこと。成果が見えない中、僕に対する信頼感が薄いこともあって、思い切った改革を実現するためにあえてトップダウン的な指示で動かしていたのです。

川島 現状をあまり変えたくないという意識って誰もがどこかに持っているので、社長になったばかりの方から「改革」と言われて戸惑う社員の気持ち、分からなくもないです。でもトップダウン型と診断され、少し自分を変えようと思わなかったのですか。

鈴木 会社が変わらなくてはいけないときに、トップが旗を振らなくて誰がやってくれるのかという思いがありました。とにかく必死で改革に取りかかっていたのです。今、再びそのコンピテンシー評価を受けたら、また違う結果が出るのかもしれませんが。