「働く」って何ですか――「就職活動以来、考えたことがない」という方、「そんな青臭い質問しないで」とお思いの方もいるでしょう。働き方改革やワークライフバランスといった旗印の下で「働く」が揺らぐ今、改めてこの根源的な問いの答えを考えてみませんか? ifs未来研究所所長の川島蓉子さんが、いろいろな企業のトップに「あなたにとって働くって何ですか?」をぶつける新連載です。

(上)虎屋17代目、黒川社長と考える「働く」って何ですか?
(下)500年の歴史を持つ虎屋社長 大切なのは今、この時 ←今回はココ

川島蓉子さん(以下、敬称略) 前回に続いて、虎屋の代表取締役社長を務める黒川光博さんのお話をうかがいます。虎屋が500年近い歴史を持ち、和菓子の老舗として名をはせているのは言うまでもありません。(上)編では「本当に必要な会話を成立させるところから仕事は開ける」というエピソードをお聞きしました。(下)編では、仕事における成長や、本題である働く意味について聞いていきます。

 働いていると、何をもって自分が成長しているのかと不安になることがあります。若い頃の黒川さんは、そういう思いを抱いたことはないのでしょうか。

黒川光博社長は虎屋の17代目。和菓子職人たちが働く姿を見ながら育った。学習院大学を卒業後、富士銀行(現みずほ銀行)勤務を経て、1969年に虎屋へ入社。1991年に父親から会社を引き継ぎ、社長に。本社の廊下には和菓子の絵が季節ごとに飾られている。今回の取材は3月上旬に実施した
黒川光博社長は虎屋の17代目。和菓子職人たちが働く姿を見ながら育った。学習院大学を卒業後、富士銀行(現みずほ銀行)勤務を経て、1969年に虎屋へ入社。1991年に父親から会社を引き継ぎ、社長に。本社の廊下には和菓子の絵が季節ごとに飾られている。今回の取材は3月上旬に実施した

本田宗一郎さんの言葉に励まされた

黒川光博(以下、敬称略) もちろんありますが、それにまつわる話をひとつ。日本青年会議所の仕事をしていた30代のころだったと思います。本田宗一郎さん(ホンダ創業者)が「若い人を信頼してもっと仕事を任せなければいけない。やらせてみればできるのだから、やらせないのは上の世代が良くない」とはっきりおっしゃったのです。

川島 「今どきの若い人は~」という物言いはいつの時代もあって、「やらせてもらえない」もどかしさが、自信のなさにつながることって多いものです。

黒川 当時の本田さんは70代で、今の私よりも若い。ですが、そのとき30代だった私から見たら大先輩。その方が「信頼して任せることが大事。これからは君たちの時代なのだから、君たちが頑張らないでどうするんだ」と何度も熱弁をふるってくださった。背中を強く押していただいた気がして、その都度大きな励みになりました。

川島 大先輩の働き方を見ていると、現状を肯定する「守り」の方と、本田さんのように、枠組みにとらわれない「攻め」の方がいると感じます。黒川さんは圧倒的に後者であり、例えば年中無休だった虎屋の店舗に休日をもうけるなど、過去にとらわれず新しいことに挑戦してきました。

黒川 父たちの時代は総じて高度経済成長期で、がむしゃらに働く価値観があったのだと思います。それが今は、家庭での時間や日々の暮らしも大事にしていく時代へと明らかに変わっている。休日を導入する判断をしたのは、「今までこうやってきたから続けなくては」でなく「今はこういう時代だからこう変えていい」という考えが根底にあってのことです。

川島 社長に就任されて随分長いと思うのですが、そういう柔軟な姿勢を持ち続けるには、秘訣があるのでしょうか。