「働く」って何ですか――「就職活動以来、考えたことがない」という方、「そんな青臭い質問しないで」とお思いの方もいるでしょう。働き方改革やワーク・ライフ・バランスといった旗印の下で「働く」が揺らぐ今、改めてこの根源的な問いの答えを考えてみませんか? ifs未来研究所所長の川島蓉子さんが、いろいろな企業のトップに「あなたにとって働くって何ですか?」をぶつける新連載が始まります!

川島蓉子さん(以下、敬称略) ここ数年、「働き方改革」を筆頭に、仕事の周辺が大きく変わろうとしています。そんなところに新型コロナウイルス問題が――。人は何のために働くのか、生きていく上で仕事とは何を意味するのか、大きな課題が突きつけられているように感じます。

 この連載は、そんな疑問について「話を聞いてみたい」と思う方にあれこれ聞いていくもの。読者の皆さんにとって、働くこと、暮らすことに向かうヒントになれば幸いです。

 初回は、虎屋の代表取締役社長を務める黒川光博さんにお話を伺います。虎屋が500年近い歴史を持ち、和菓子の老舗として名をはせていることは言うまでもありません。黒川さんは伝統の重みや枠組みに捉われることなく、新しい商品や店作りに取り組んできました。(上)では、黒川さんが17代当主として、働くことをどう捉えているのか、若い頃のこぼれ話も含めて聞いていきます。

黒川光博社長は虎屋の17代目。「大切なのは、過去でも未来でもなく、今、この時」を持論とする経営者。学習院大学を卒業後、富士銀行(現みずほ銀行)勤務をへて、1969年に虎屋へ入社。1991年に父親から会社を引き継ぎ、社長に。今回の取材は3月上旬に行った
黒川光博社長は虎屋の17代目。「大切なのは、過去でも未来でもなく、今、この時」を持論とする経営者。学習院大学を卒業後、富士銀行(現みずほ銀行)勤務をへて、1969年に虎屋へ入社。1991年に父親から会社を引き継ぎ、社長に。今回の取材は3月上旬に行った

「虎屋の社長になる」という宿命を背負って

川島 黒川さんは、小さい頃から「いずれは虎屋に入って社長になる」ことが決まっていたのですよね。

黒川光博さん(以下、敬称略) 職人さんたちの働く姿を見ながら育ったので、いずれはそうなると思っていました。大学を卒業する1年前くらいのことでしょうか。父親に呼ばれて「いずれ虎屋に入ってもらうが、それまでは好きなことをやっていい。何をやりたいのか」と言われたのです。その時初めて、明快に「継ぐこと」を意識しました。

川島 選んだ「好きなこと」は何だったのですか。

黒川 虎屋に入ることが前提なら、少しでも役立つものがいいと考えました。他の企業に身を置き、働くということ、組織の在りかたなどを学びたいと思い、銀行に就職させて頂いたのです。