“少女漫画界のレジェンド”として長年活躍し、第一線からは退いた今も、あふれる好奇心と探求心で人生を味わい尽くしている一条ゆかりさん(73歳)。一条さんの人生訓を集めたエッセー集『不倫、それは峠の茶屋に似ている たるんだ心に一喝!! 一条ゆかりの金言集』(集英社)には、新作ショート漫画『その後の有閑倶楽部』も収録されています。今回、一条さんが50代から60代にかけて取り組んだ作品『プライド』を振り返りながら、ネタ調べのコツやマンネリ打破の工夫、さらに過去の離婚経験や現在の暮らしについても、明るく鋭い口調で語ってくれました。
(1)一条ゆかり 『その後の有閑倶楽部』は最後の新作漫画
(2)『その後の有閑倶楽部』 社会人になった6人を描く苦労
(3)一条ゆかり 女はどう生きればいいか、漫画で描いてきた
(4)離婚、緑内障…でもご機嫌でいられる仕組み 一条ゆかり ←今回はココ
知識ほぼゼロの状態でオペラを描いたら、プロに注目された
編集部(以下、略) 2人の女性がオペラを通じて成長する姿を描いた『プライド』では、「人としてのプライド」をテーマに描いたそうですね。この作品で、一条さんは第11回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞しました。
一条ゆかりさん(以下、一条) お金持ちのお嬢さんと貧乏な女の子が対決する「ハンディのある戦い」という設定は最初から決めていましたが、何を舞台にするかは迷いました。同じ実力ならコネのあるお金持ちのほうが、スポンサーから選ばれるチャンスは圧倒的に多い。野心と根性のある貧しい子がゼロから戦ってはい上がるためは、ちょっとした卑怯(ひきょう)な手もまかり通る場所が必要でした。
―― オペラ以外の候補もあったのでしょうか?
一条 バイオリンや乗馬も考えたのですが、バイオリンは楽器やオーケストラを描くのが大変ですし、乗馬は“紳士淑女のスポーツ”なので卑怯な手は使えません。取材を始めた頃に、オペラのコンクールで1位を目指す女の子を追ったドキュメンタリー番組をたまたま見たんです。予想順位の番狂わせやちょっと意地悪な場面もあったりして、勝負に懸ける気合がすごい世界だなと引き込まれました。生の舞台で勝負をするオペラは、普段どれだけ素晴らしくても本番で失敗したらそれで終わり。女の子があこがれる上品で美しい世界観もあったので、「これだ!」と思いました。
オペラは海外で3回くらい見た程度でしたが、「私の分からないことは読者も分からないはずだから、大丈夫だろう」と根拠のない自信を持って描き始めると、音大生や芸大生、プロのオペラ業界の人たちが注目してくれたんです。オペラ雑誌から取材の依頼も来たりして……(苦笑)。私はどの作品でもディテールの描写にこだわるようにしていますが、「困った、これはいいかげんなことは描けないぞ」と、オペラについてもかなり詳しく調べましたね。
―― 取材はどのように進めていきましたか?