『デザイナー』『砂の城』『有閑倶楽部』『プライド』などを代表作に、“少女漫画界のレジェンド”として長年活躍を続けてきた一条ゆかりさん。50代前半に緑内障を患い、当時連載していた『プライド』の最終回を2010年に描き上げて以降、現在は漫画家としての活動をほとんど休止しています。22年6月にエッセー集『不倫、それは峠の茶屋に似ている』(集英社)を出版。一条さんの人生哲学が詰まった金言に加えて、累計売上部数2500万部超えの学園アクションコメディー『有閑倶楽部』のその後を描いた新作短編漫画も収められ話題です。漫画家として自らをプロデュースし続けた一条さんのこだわりや「漫画を描くのは今回で最後のつもり」という有閑倶楽部完結への思いとは?

(1)一条ゆかり 『その後の有閑倶楽部』は最後の新作漫画 ←今回はココ
(2)『その後の有閑倶楽部』 社会人になった6人を描く苦労
(3)一条ゆかり 女はどう生きればいいか、漫画で描いてきた
(4)離婚、緑内障…でもご機嫌でいられる仕組み 一条ゆかり

編集部(以下、略) コメディーからシリアスな恋物語まで次々とヒット作を生み出し、短編も含めるとこれまでに90作品以上を世に送り出している一条さん。ドラマチックな物語の展開と華やかな画風に、心をつかまれたARIA読者は多いと思います。2010年『プライド』の最終回を機に、漫画家として第一線から退くという決断をしたのは目の病気の影響があったのでしょうか。

一条ゆかり(以下、一条) 漫画の新作を描くのをやめていた理由はいくつかあります。1つは、自分が描きたいものは描き切ってしまったこと。もう1つは、緑内障や腱鞘(けんしょう)炎で、体が悲鳴を上げている状態だったことです。今まで相当無理をしたツケが、利子をつけて返ってきたって感じですね。というのも、漫画を描いているときは、自分の中に鬼プロデューサーであるもう1人の自分がいるんです。

「アリアって、オペラの独唱曲でしょう。1人でちゃんと歌う。今までは一条ゆかりがアリアを歌ってて、今やっと自分の人生が戻ってきた! って気分です」と日経xwoman ARIAの媒体名を聞いてほほ笑む一条ゆかりさん。オペラ歌手という夢に向かって2人の女性が熱い戦いを繰り広げる『プライド』は、第11回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞受賞。あふれる好奇心と鋭い感性は72歳の今も健在です
「アリアって、オペラの独唱曲でしょう。1人でちゃんと歌う。今までは一条ゆかりがアリアを歌ってて、今やっと自分の人生が戻ってきた! って気分です」と日経xwoman ARIAの媒体名を聞いてほほ笑む一条ゆかりさん。オペラ歌手という夢に向かって2人の女性が熱い戦いを繰り広げる『プライド』は、第11回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞受賞。あふれる好奇心と鋭い感性は72歳の今も健在です

漫画家・一条ゆかりを支えてきた本当の自分に時間をつくりたかった

―― 鬼プロデューサーが、常に自分を律しているのですね。

一条 「一条ゆかりはうちの芸能プロダクション唯一のスター」という感じで、本名の藤本典子はプロデューサーです。たった1人のこの女優をどうやったら目立たせて、いい仕事をさせて、そして本人もちょっといい思いができるのか、ということをいつも考えていました。今でも、これだけ苦労と努力を重ねてつくった「一条ゆかり」を、私の判断ミスで傷つけてはいけないという、(自分のことなのに)赤の他人のような感覚がありますね。

 私は「一条ゆかりの奴隷だ」とずっと言ってきて、自ら進んで奴隷になりました。でも、人生の多くを漫画にささげてきたご褒美として、そろそろ藤本典子のための時間をつくってあげようと思ったんです。

―― 漫画家・一条ゆかりさんが背負ってきたものはやはり大きかったですか?