人は、さまざまな思い込みに左右されて、無意識のうちに自分の可能性を狭めている――。そう話すのは精神科医でマジシャンの志村祥瑚さんです。「選択肢はAかBのどちらか」「この目標を達成するのは難しい」……あなたが論理的に導き出した「正解」も、実は単なる思い込みかもしれません。目に見えない思い込みのメカニズムをマジックを通して解き明かし、自分に限界をつくらず行動するための思考法を志村さんが解説します。

(1)マジックの種明かし動画で納得! 思い込みのメカニズム
(2)挑戦し成長を続ける人は「根拠のない自信」を持っている
(3)プレゼンする自信が身に付く!1分で覚えるマジック動画 ←今回はココ

 人の脳は物事をロジカル(論理的)に考える癖があり、それゆえに「あんなに高い目標をクリアするのは無理」「前例がない」などと、可能性に自ら蓋をしたり、挑戦をためらったりしがちです。でもそこであえてイロジカル(非論理的)に考えること、そして頑張るためには根拠のない自信を持つことが大事だと、前回お伝えしました。

 自分の頭に浮かんでいることに対して、「いや、それは単に脳がそう錯覚しているだけかもしれないし、マジックのように理屈で説明のつかないことだって起こるんだから、ほうっておこう」と、一歩引いた視点で思ってみる。認知心理学で言うところの「メタ認知」です。

 真面目に頑張ってきた人ほどロジカルに考える力が鍛え上げられていて、結果的に視野が狭まったり、自分の考えで自分を縛ってしまったりする傾向があります。そうした強い思い込みを、メタ認知によって手放す。マジックはメタ認知を学ぶ最強のツールだと思っています。

過去とは、出来事の一部を切り取った記憶でしかない

 これは僕が過去に診察した30代男性のお話です。その方は聴覚に障害があり、学生時代に周囲からいじめられたことが原因で、PTSDとうつ症状を発症していました。「なぜ自分には障害があるのだろう」「あいつらに出会わなければ、自分の人生は良いものになっていたのに」……彼はそうした思いにずっととらわれて、家に引きこもっていました。

 心の病を治療するときに大事なのは、「過去は過去だ」と思うことです。過去とはその人の記憶であって、出来事の一部を切り取ったものでしかありません。今となっては確認しようがないことにしがみついていてもつらいだけだし、前にも進めない。だったら、脳が「今の自分がうまくいかないのはあの過去のせいだよ」と言ったとしても、無視してはどうですか? 僕は彼にそう話しつつ、いろんなマジックを見せました。「このマジックと同じで、その記憶はイリュージョンかもしれないですよ」と。すると彼は、「そうかもしれないな」と言いました。

 1カ月ほどすると、その男性に変化が見られ始めました。

「過去の出来事にとらわれ、心の病を抱えている男性に『その記憶はこのマジックと同じで、イリュージョンかもしれませんよ』と、マジックを見せながら話しました」
「過去の出来事にとらわれ、心の病を抱えている男性に『その記憶はこのマジックと同じで、イリュージョンかもしれませんよ』と、マジックを見せながら話しました」