「このままこの会社にいていいのだろうか」と不安になり、「転職」の二文字が頭をよぎる……。組織の一員として働いていれば、誰しも一度は経験があるのではないでしょうか。仕事人生が長くなった今、転職はARIA世代にとっても無縁ではありません。『働くみんなの必修講義 転職学』の共著者である立教大学経営学部教授の中原淳さんとパーソル総合研究所上席主任研究員の小林祐児さんに、「転職のプロセス」を科学的なアプローチでひもとく「転職学」について学びます。今回の講師は中原さんです。

(1)転職の8割は「不満」が動機 人はなぜ会社を辞めるのか ←今回はココ
(2)転職難民化する「新卒で大企業、時計が止まっている人」
(3)転職後、新しい職場に早くなじむために取るべき行動とは

なぜ私たちは「転職学」を学ぶ必要があるのか

―― 「転職学」とは耳慣れない言葉です。どのような研究なのですか?

中原淳さん(以下、中原) 「なぜ人は離職するのか」「どのように転職すればいいのか」「どのように新たな組織に参入すればいいのか」という3つのプロセスを一気通貫で取り扱う、「転職」の総合デパートのような研究です。

 ひと昔前まで、転職は好ましくないものと思われていました。「一つの会社で長く働くこと」がよしとされていたからです。ところが昨今では、そうした転職のイメージも変わってきています。若い世代の中では、転職もキャリアの選択肢の一つと捉えられるようになっていますし、40~50代のミドル世代であっても「人生100年時代、仕事人生も長くなるし、今から転職の可能性もあるかも」と転職を意識しながら働く人が増えてきました。転職希望者の比率も増加傾向にあり、転職が以前より格段に身近なものになってきています。

 とはいえ、転職が人生の一大事であることに変わりはありません。転職の失敗は人生に大ダメージを与えます。また、そもそも「しなくてもよい転職」なら「転職しない」にこしたことはありません。社会には、さまざまな「転職あおり本」か「転職強者の本」があふれていますが、私たちは、それらの書籍とは一線を画したいと思います。

 なにより転職の難しさは、後悔しても、基本的には元に戻れないところにあります。だからこそ「今、辞めるべきなのか。どのように転職活動をすべきか。どうすれば入社後うまくなじめるのか」をしっかりと学んだ上で慎重に進めるべきですが、なぜか世の中には、そうした知識を教えてくれる人もいなければ、それを学ぶ場もありません。多くの方々が、今後、悩むであろう「みんなの課題」に対する処方箋を提供させていただきたい、という思いで今回、「転職学」について本にまとめました。

 ちなみに、転職に関わる情報はちまたにあふれていますが、その大部分が転職活動にまつわる話で、内定獲得がゴールとなっています。しかし、実際に転職する個人にとっては、前職を辞め、転職活動をして、新しい職場で1~2年して「転職してよかった」となって初めて「転職成功!」となるわけです。そこで私はパーソル総合研究所と共同で、離職、転職、定着のプロセスを一気通貫する研究として「転職学」を立ち上げ、数年間にわたり、働く人約1万2000人への大規模調査を行い、さまざまな知見を得ました。これらはすべての働く人たちに役立つものと考えています。

―― おっしゃる通り、最近ではARIA世代でも転職を考えている人は増えている印象があります。

中原 若い人ほど転職意向が強いのは確かですが、今回の調査から、仕事人生において離職の危機は大きく2回あることが分かりました。