既に世界186カ国・地域で11億9500万回を超える接種が行われた新型コロナワクチン(2021年5月6日現在)。日本でも2021年2月から医療関係者への接種が始まり、4月には接種の対象が高齢者にも広がっています。新型コロナウイルスの感染を恐れる一方で、急ピッチで開発されたワクチンへの不安から、「ワクチンを打つべきか」と悩む方もいるでしょう。どんなワクチンでも、大切なのはよく分からないまま過度に恐れ過ぎずに正しい知識を基に判断すること。新型コロナウイルス感染症対策分科会のメンバーである、川崎市健康安全研究所所長・岡部信彦さんに、知っておくべきワクチンの最新知識を聞きました。

(1)WHOも驚く コロナワクチンが短期間に完成した理由5
(2)新型コロナワクチン接種のときにはこんなことに注意 ←今回はココ
(3)40代、50代が「今さら」接種すべきワクチンとは?

編集部(以下、略) 2021年4月12日、いよいよ日本でも医療従事者以外の一般の人への新型コロナワクチン接種がスタートしました。首相官邸によれば2021年5月5日現在の高齢者などへの接種回数は21万3925回で、その数は徐々に増えています。65歳以上の高齢者から始まり、最終的には16歳以上の一般の人が受けられるようになります。新たなワクチンへの不安から、接種するかどうか迷う人もいるようですが、新型コロナワクチンは誰もが受けなければならないものなのでしょうか?

ワクチンの接種は強制される義務ではない

岡部信彦さん(以下、岡部)  新型コロナワクチンは、国が国民に接種するよう勧めているものですが、強制される義務ではありません。接種するかしないかはその人の意思に委ねられています。日本の予防接種行政の歴史を振り返ると、予防接種法が制定された1948年には、天然痘などの予防接種は接種しない人には罰則規定がある「義務接種」でした。社会全体を感染症から守るためにこの法律が制定されたためです。結果として感染症で死亡する人が減るという効果も得られました。

 一方で予防接種の広まりとともに種痘後脳炎などの接種による副反応と重篤な後遺症が社会問題となり、1976年に予防接種法は定期接種については「罰則規定のない義務接種」へと改訂されました。さらに1994年には定期予防接種は「努力義務」へと変更になり、救済制度も拡充されました。国・自治体は必要性について説明したうえで接種を勧奨するが、最終的には接種する人がその意義とリスクを理解した上で接種するかを決める「勧奨接種」になっています。

 新型コロナワクチンは予防接種法の中の「臨時接種」の位置づけですが、基本的には勧奨接種であり、努力接種義務があるとされるので、定期接種のA類疾病*とほぼ同様の考え方になります。そのときの体調や基礎疾患、自分の強い考えなどさまざまな理由で予防接種が受けられない、受けたくない人もいるわけで、その人たちの人権を守り、差別されることがないようにすることも大切なのです。ワクチン証明書なども話題になっていますが、プライバシーや人権の配慮から、米国ホワイトハウスでは連邦レベルでのワクチン接種完了証明書の導入はしないと発表しましたね。

*定期接種のA類疾病:人から人に伝染することから、又はかかった場合に病状が重篤化もしくは重篤化の恐れがあることから、その発生とまん延を予防するために行われる予防接種。麻疹(はしか)、ポリオなど

 ただ、ワクチンを受けない選択をした人にぜひ心に留めておいてほしいのは、多くの人がワクチンを接種することによって感染症の広がりを抑えられるということです。自分がワクチンを受けなくても感染のリスクが下がるのは、多くの人々が接種を受けてくれたおかげであり、接種を受けた人への感謝の気持ちを少しでも持っていただければと思います。

「ワクチンを受けない選択をした人にぜひ心に留めておいてほしいのは、多くの人がワクチンを接種することによって感染症の広がりを抑えられるということです」(川崎市健康安全研究所所長・岡部信彦さん)
「ワクチンを受けない選択をした人にぜひ心に留めておいてほしいのは、多くの人がワクチンを接種することによって感染症の広がりを抑えられるということです」(川崎市健康安全研究所所長・岡部信彦さん)

――  新型コロナワクチンを受けてはいけない人や、受ける際に注意が必要な人はいますか?